ホーム エッジ コンピューティング 産業用ネットワーク~センサ・デバイスと上位システムを結ぶネットワーク

産業用ネットワーク~センサ・デバイスと上位システムを結ぶネットワーク

古くからのパソコンユーザーであれば、RS-232Cという規格を聞いたことがあるかもしれません。では、PLCという言葉はどうでしょうか?実はこれらは産業分野においては大変重要な、産業用ネットワークという分野で用いられる規格や言葉です。ここでは、産業用ネットワークについて簡単にご紹介します。

産業用ネットワークとは?

産業用ネットワークとは、装置や生産ラインに設置されたセンサやデバイスを制御し、そこからの情報を、例えば製造実行システムのような上位のシステムに送信するためのネットワークのことです。フィールドネットワーク、FAネットワーク、フィールドバスとも呼ばれています。

通常、工場のネットワークシステムは以下の4層構造で構成されています。

  • 第1層:情報システムネットワーク
  • 第2層:コントローラネットワーク
  • 第3層:フィールドネットワーク
  • 第4層:省配線ネットワーク

情報システムネットワークには製造実行システム(MES)が含まれ、コントローラネットワークにはプログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)が含まれます。さらに、フィールドネットワークにはセンサやモーターとの通信を行うコントローラが含まれ、センサとコントローラの通信配線を単純化する省配線ネットワークが最下層です。

この記事で対象としているのは、第3層のフィールドネットワークです。昔のパソコンに付いていたRS-232Cというインターフェースは、もともとこの第3層のネットワークの古い規格のことです。

工場の装置や生産ラインでは、物理デバイスやセンサといったネットワークの構成要素があまり変動せず、常に同じものが接続されていることがほとんどです。一方、データの伝送エラーや停止などのトラブルがなく、データの伝送量の変化に関係なく常に同じスピードで、安定して確実に動作することが求められます(これを「リアルタイム性の確保」と言います)。

そのため、オフィスで用いられるインターネットやLANなどのネットワークの規格であるイーサネットではなく、独自のネットワークの規格が発達してきました。しかし、近年普及が進んでいる製造実行システムのような上位のシステムがイーサネットベースで構築されていることや、イーサネット系の弱点だったリアルタイム性の改善が行われた結果、最近では、フィールドネットワークもイーサネットベースの規格が増えてきています。

フィールドネットワークの歴史と規格

工場の機器をネットワークで結んで、データを収集する、あるいは、モーターやロボットなどを制御するためのコントローラをネットワークで結んで統合管理するという、いまのIoTに近い発想は1970年代にはあったといわれています。実験的な研究がすでになされていたのです。ただ、当時はアナログ技術全盛の時代で、デジタルのハードウェアやソフトウェアがまだまだ貧弱だったこともあり、このようなデジタルの実用的なネットワークの実現は当面先のことだと考えられていました。

その後、デジタル技術の進歩により、フィールドネットワークは1990年代にさかんに実用化されました。当時はさまざまな規格が生まれ、約40種類もの規格が乱立した時代もありました。その後整理が進み、現在はメジャーな規格では10数種類まで絞り込まれています。

フィールドネットワークはRS-232Cから発展したRS-485系と、イーサネット系、ワイヤレス系の3つの系統があります。前述したように、近年ではイーサネット系の規格が優勢になっています。また、ワイヤレス系も徐々に増えてきています。

RS-485系フィールドネットワークの特徴

歴史が長く、それだけ多くの現場で使われてきた「枯れた技術」であることがRS-485系のメリットと言えるでしょう。また、動作が比較的安定しており、リアルタイム性に優れています。さらにノイズに強いことも特徴です。この「信頼性の高さ」と「実績」こそRS-485系フィールドネットワークが30年以上にわたって使われている大きな理由であり、イーサネット系が優勢になっている現在でも、なかなか「捨てがたい」規格なのです。

デメリットとしては、伝送速度がイーサネット系に比べると遅いこと。加えて、機器の価格がイーサネット系に比べるとやや高い傾向があることです。

イーサネット系フィールドネットワークの特徴

イーサネット系のメリットは、やはりベストエフォートでの伝送速度が比較的速いことでしょう。上位の情報システムとプロトコルやハードウェアが共通なので導入が気軽にできます。また、ケーブルやネットワークアダプターなどのハードウェアが、すでに大きく普及しているLANと共通なので、機器の価格を安く抑えることができます。

一方、デメリットとしては、イーサネットでは、ネットワークのトラフィックが増大すると伝送速度が低下することが挙げられます。つまり、生産システムの規模が大きくなり、タクトタイムを上げようとすると伝送速度が低下し、データ伝送のリアルタイム性が失われてしまうのです。したがって、リアルタイム性を確保するためにはなんらかの工夫が必要になります。

ワイヤレス系フィールドネットワークの特徴

ワイヤレス系の最大のメリットは、有線配線が不要なこと。これは、フィールドネットワークをあと付けで設置する場合や、工場の床下や天井に有線配線を行うスペースがない場合に非常に有利です。また、同様の理由により工場のレイアウト変更のような場合にも柔軟に対応できます。加えて、ケーブルを設置しない分だけコストもかからないので、システム全体のイニシャルコストが安い傾向にあります。

その一方で、ワイヤレスでは電波を使用して通信を行うため、回折や反射などの電波の伝搬状況によっては伝送がうまく行えない場合があることが、ワイヤレスならではのデメリットです。そのため、原則として機器のアンテナはお互いに見通せる位置に設置する必要があるでしょう。

各系統別の代表的な規格とその特徴

RS-485系の規格とその特徴

主なものに、「CC-Link」や「PROFIBUS DP」などがあります。

「CC-Link」は、三菱電機が開発した日本・アジアで有力な規格です。特徴としては、最高10Mbpsの転送速度、1.2kmの伝送距離があり、比較的高速で伝送距離が長いです。また、ネットワーク当たり64局の機器を接続できます。日本では、ほぼこの規格がデファクトスタンダードになっています。なお、CC-Linkは本来RS-485系の規格ですが、近年イーサネットベースのCC-Link IEも登場しています。イーサネットとRS-485の変換機能を持ったコントローラも用意されています。

「PROFIBUS DP」はヨーロッパを中心として有力な規格です。ワールドワイドでは最大のシェアを持っています。特徴としては、ネットワーク当たり126局の機器を接続できます。また、光ファイバケーブルにも対応しています。

イーサネット系の規格とその特徴

主なものに、「EtherNet/IP」、「EtherCAT」があります。

「EtherNet/IP」はイーサネットの弱点を克服するために、サイクリック通信をサポートした通信規格です。ちなみに「IP」とはIndustrial Protocolの略です。サイクリック通信とは、一定の周期で通信を行うことで、この規格ならではの通信制御です。これにより、見かけ上リアルタイム性を確保することができます。自動車メーカーのGMが採用していることでも知られており、アメリカでは大きなシェアを獲得しています。

「EtherCAT」は、同じくイーサネットの弱点を克服するために、ネットワークトポロジー(ネットワークの物理的な接続形態)を原則としてツリーからリングに限定した規格です。こちらは、トヨタ自動車が採用したことで知られています。通常のネットワークではハブやルーターを用いてツリー状に分岐していきますが、EtherCATでは機器をデイジーチェーン状に接続していきます。これにより、リング内では一定のトラフィック量となり、リアルタイム性を確保することが可能です。

ワイヤレス系の規格とその特徴

ワイヤレス系の規格には、「ローカル5G」や「LPWA」などがあります。

ローカル5G」は次世代の携帯電話の標準規格である5Gを、場所を限定して使えるようにしたものです。5Gの高速性をフィールドネットワークに使用できるものとして期待されています。

「LPWA」は現在ワイヤレスフィールドネットワークに用いられている主流の方式で、低電力で広いエリアをカバーできるものとして普及しています。伝送速度が遅いというデメリットがありますが、コストが安く、普及の助けとなっています。

規格の多さは選択の幅が広いということ

以上、産業用ネットワークの規格について簡単に紹介しました。産業用ネットワークの規格にはさまざまなものがあります。現状ではイーサネット系の規格が若干優勢ですが、長年にわたって多くの現場で使われた実績を誇るRS-485系の規格も捨てがたいものがあります。また、場合によってはワイヤレス系も一考の余地があると言えます。いずれにしても、大切なのはそれぞれの規格の特徴をよく把握し、構築しようとしている生産システムに最も適した規格を選択することです。多様な規格があるので選択の幅が広いことを生かしましょう。

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