ホーム リーダーシップ 映画「ドリーム (“Hidden Figures”)」を観て思い出した、米国のコミュニテイカレッジ ~日本ストラタステクノロジー 社長ブログvol.2

映画「ドリーム (“Hidden Figures”)」を観て思い出した、米国のコミュニテイカレッジ ~日本ストラタステクノロジー 社長ブログvol.2

先週、邦題で“ドリーム”、オリジナルの題名が“Hidden Figures”という映画を鑑賞してきました。本年のアカデミー賞の作品賞において、受賞した”ムーンライト“や”ラ・ラ・ランド”と最後まで競った作品です。米国での興行収入も“ラ・ラ・ランド”よりも稼いだようです。

日本で有名なスターが出ていないのが、公開が遅れた理由といわれていますが、我が家では事情がことなります。 “ビッグバンセオリー”のシェルドンことジム・パーソンズがNASAの主要技術者役で出演していたので、とても気になっていました。ジム・パーソンズは理工系の若い学者が当たり役で、米国で最も年収の高いTV俳優です。

この映画の主役は、人類を地球の軌道上にロケットで乗せようという米国のマーキュリー計画の裏方で活躍した、実在の3人の黒人女性です。彼女らの仕事は”コンピュータ“です。日本語では計算係ということでしょうか。1960年代ですので、”コンピュータ”はまだ人間です。手作業で計算をする人です。映画にはNASAが初めて導入したIBM開発の計算機が登場しますが、“コンピュータマシーン”とか、“コンピュータシステム”とか呼ばれていました。

この映画では、米国の黒人女性が徹底的な差別や前例踏襲主義を乗り越えていく、いくつかの痛快なシーンを経験することが出来ます。実話をベースにしたストーリです。戦争中そしてソ連との冷戦時期にはコンピュータつまり計算係が不足していたので、黒人女性も採用したようです。但し、人種隔離政策の下にトイレも別、バスの座席も図書館も学校も別な時代でした。また、人種の問題だけではなく、重要な会議には女性を参加させないということが当然の時代でした。つまり二重の差別の壁があった時代でした。

この映画がヒットしたのは、お父さんお母さんや学校の先生が子供たちを連れて映画館に行ったからだと言われています。特に、アメリカの中で貧しい黒人の住んでいる地域であるとか、メキシコ系の人とか、そういった人の子供たちが連れられて見に行ったから、すごく動員が伸びたらしいです。差別があっても勉強ができたら壁を乗り越えられる。また、差別に対してこうやって戦って乗り越えていくという実例を映画で見せるということです。

いくつかのことを考えさせられましたが、その中で思い出したことがあります。米国では一度社会に出た人々への教育の機会がコミュニティカレッジということで提供されていたなということです。メアリー・ジャクソンさんという計算係は、ロケットの設計をするエンジニアを目指すのですが、工学の学位がないということで退けられます。しかも、その学位を取得する学校は白人しか入れない学校だったのです。メアリーは裁判を起こして、判事に夜間学校に通うことを認めてもらい、最初は理解のなかった夫からも協力を得てエンジニアになります。この判事を説得する場面は大好きなシーンです。目標に向かって教育の機会を得ようとしている人間を支援すること。そして機会を得た人間が努力をして目標を達成すること。一見シンプルなことですが、高等教育におけるエッセンスであると考えます。

メアリーの通った学校はコミュニティカレッジではありませんので、実話の経緯からは少し話がそれますが、紹介をさせてください。米国では高等教育の機会を広く提供するために、コミュニティカレッジが存在します。州や自治体が設立した2年制の教育施設で、高校の卒業資格があれば試験なしで入学できます。実家の近くのコミュニティカレッジに2年間通ったあとで、4年制大学に編入して学士となるというのが経済面では効率的なコースであり、非常に多く見受けられます。2014年の調査によると、“コミュニティカレッジの学生はワーキングクラス出身であったり、人種的にマイノリティであるケースが多い。25歳以上であり、普通の4年制大学の学生と比較して両親の教育レベルも必ずしも高くはない。しかし、コミュニティカレッジの学生は多くの障害に直面しながらも、非常に高い向学心を持ち、自己主導型であり、耐性が強い。”と報告されています。実は、私が1990年代後半に米国に転勤していた際に、妻が自宅近くのコミュニティカレッジの授業を何科目か受講しました。転勤して2年目に入ると、つまり1年以上在住すると、非常に安い金額で受講できた記憶があります。住民であることを、電気代かガス代の支払い票で証明した記憶があります。当時妻がベトナム系の学生をお昼に誘って、数ドルのランチをご馳走してあげたら、想像以上に喜ばれたと言っていました。その学生は食費も切り詰めて学校に通っていましたが、資格を取るために勉強を継続する執着心に感心したと言っていました。

コミュニティカレッジの仕組みは日本でも研究をして良いのではないかと考えます。メリットはいくつかあります。授業料は4年制の大学よりかなり安いので、編入を前提として、4年制の大学での高い授業料や生活費を2年間に短縮できること。修士号や博士号を取得したが仕事に恵まれない資格者に、地域での高等教育の教員・教育者としての仕事の機会を提供できること。そして、一度社会に出た人々に、地域において再学習の機会を与えることです。

米国ではオバマ大統領時代に、コミュニティカレッジの授業料を無料にするという政策が発表されました。その際に一部の州ではそれ以前からコミュニティカレッジの無償化が実施されていたことを知りました。ある一定レベルの成績を維持することが前提ですが、確かに一部では無償化が実施されているようです。

“ドリーム”、“Hidden Figures”の映画の話から少し発展しましたが、今月は米国のコミュニティカレッジについて紹介させていただきました。

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