生産技術や生産管理、あるいは製造の現場に関わっている人は「4M」あるいは「生産の4M」という言葉をよく聞くのではないでしょうか。最近では4Mはさらに進化し、「5M+1E」や「6M」とも言われます。ここではこれらの言葉を説明しながら、エッジコンピューティングとの関わりについても見ていきます。
「生産の4M」とは?
生産の4Mとは、生産システムが必要とする生産資源、あるいは生産要素のことです。人(Man)、設備(Machine)、材料(Material)、方法(Method)の頭文字を取っています。
また、方法(Method)の代わりにお金(Money)とした考え方や、上記の4Mに情報・作業指示(Information)を加えた4M1Iとする考え方もあります。各要素の具体的な中身は以下のとおりです。
- 人: 生産に必要な作業員や検査員、広い意味での設計者などのこと
- 設備: 生産に必要な工作機械や、検査装置、製造装置、搬送装置のこと
- 材料: 生産に必要な原材料や、電気のような動力のこと
- 方法: 加工方法や、ハンドリングなどの生産に必要な手段のこと
- お金: 材料費や人件費、光熱費、運搬費用、管理コストなど、生産活動に必要なお金のこと
- 情報・作業指示: 市場のトレンドや、調査結果、あるいは、作業の指示のこと
「人」の作業スキルが低いと製品の品質や製造スピードが低下します。また、「設備」が悪くても製品の品質や製造スピードが低下するでしょう。そして、「材料」の品質が悪く量が十分に供給されないと製造品質が下がって生産量が低下し、「方法」が悪いと製品の精度が悪くなり、効率が低下するのです。
また、予定している製造品質を満たすためには材料を吟味し設備を整え、適切な作業員を配置する必要があります。そのためにはある程度のコストを覚悟しなければなりません。しかし、コストが高すぎると採算が合わなくなります。これが「お金」です。そして、生産活動を市場の動向に合わせてタイムリーに行うためには、設計部門、営業部門、生産部門など広い意味での生産に携わっている人が最新の市場の動向を共有している必要があります。また、作業員に対して的確な指示を行う必要があります。これが「情報・作業指示」です。
したがって、生産システムの製造品質を上げ、効率を高めるには、これらの観点から常に生産システムの状態を分析・管理する必要があるのです。
変更管理と変化点管理
生産の4Mを使った管理に変更管理や変化点管理があります。それぞれの言葉は少し紛らわしいですが、変更管理とは生産システムを運用していく過程で「予測できる変更」のことを指します。一方、変化点管理とは生産システムを運用していく過程で「予測できない変更」のことです。
変更管理の具体例
「予測できる変更」には、設計の変更や、改善活動による品質の向上、工程の変更などがあります。例えば、生産システムをあらかじめ生産の4Mの視点で分析しておくことにより、「うちは改善活動で品質が上がりやすいな」あるいは「うちの製品は設計変更が多いな」といった生産システムのクセをつかめるようになります。
変化点管理の具体例
反対に「予測できない変更」もあります。故障や製品の不具合が発生した場合が代表的な例でしょう。ここで4Mの視点を導入して分析すれば、故障や製品の不具合の原因を特定して対処できるようになります。生産ラインは立ち上がり時や寿命が近づいてきたときに、不具合が発生しやすくなり不安定な状態となります。しかし、このような不安定なときの不具合を発見し、原因を特定・分析・記録しておくことにより、未知のトラブルを生産ラインのクセとして予測しておくことができるようになります。そうすると「この条件だとあのトラブルが発生するな。手を打っておこう」といった変更管理として取り扱うことが可能になります。
生産の5M+1Eとは
生産の5M+1Eとは、近年出てきた考え方で、上記の生産の4Mに、計測(Measurement)と、環境(Environment)を加えたものです。
「計測」が加えられるようになった理由としては、もともと4Mの分析をフィードバックして各工程の効率や品質の向上をねらう際に、工程の要所で検査工程を入れる場合が多かったことが挙げられます。また、製品に要求される品質がより高度化しているため、近年検査工程の重要性がますます高まっていることも、計測要因が付け加えられた理由と捉えられるでしょう。
なお、計測要因にはもうひとつ意味があり、生産ラインの安定稼働を維持するために生産設備の要所にセンサーを取り付けて動きを計測し監視するといった意味もあります。これを発展させたのが常時監視の考え方で、ここにエッジコンピューティングが有用です。エッジコンピューティングを使って常時監視を自動化すれば、技術者・技能者の負担を軽減し、より高度な判断や意思決定に時間をかけることが可能です。
「環境」が加わった背景には、生産の環境が品質に及ぼす影響が、近年より重視されるようになったことがあります。例えば、射出成型に使用される樹脂材料は熱によって軟らかくなり、その状態に圧力をかけて射出成型を行いますが、樹脂材料の機能の高度化に伴って溶ける温度の範囲が狭くなっています。また、半導体製造に使用される露光装置では、構造材の長さが温度によって微妙に変化し、最終的な製品の精度に影響を与えます。こうしたことから、環境を管理する重要性が高まっていると言えます。
さらに、そこで働く作業員の環境という側面も重要です。今までには冷暖房設備のない工場もあり、夏は暑く冬は寒いといった過酷な環境は心理的・肉体的に作業員に大きく影響を及ぼしていました。こうした「環境」もまた、最終的な製品の品質につながっているのです。
生産の6Mとは
生産の6Mとは上記の5M+1Eから、環境を取り除き、管理(Management)を加えたもので、これも近年よく言われるようになった言葉です。この背景にあるのは生産現場の国際化と言えるでしょう。
多くの日系メーカーが海外生産を行うようになったのは最近のことではありません。しかし、生産を行う国の国民性や習慣などによって、「あうんの呼吸」と言われるような日本流の管理手法が通用しないことは、いまだに根強く課題として残っています。例えば、日本では当たり前に行われている「各工程で品質を作り込む」といったことが、海外工場の作業員にとっては難しいことが多いです。だからといって、理由もなく作業だけを強いても反発されてしまいます。ここで必要なのは、現地の国民性や教育水準、習慣を意識しつつ適切に管理を行うことです。
逆に、すべての作業を細かいところまでマニュアル化しておくことや、細かい作業まで管理者がきちんと指示することなどは、日本国内ではあまり徹底されていませんでした。しかし、これらの管理手法や管理者の心掛けが重要なことが海外生産を行ったことで認識されるようになりました。「管理」が付け加えられたのは、生産品質の維持・向上にはこうした管理者層が大きな影響を与えることが注目されるようになったためと言えるでしょう。
海外生産、国内生産によらず、製造品質が低下し、良品率が低下してしまうことがあります。そこで、検査を強化し不良品を市場に出さないということが重要となります。このため、生産の6Mでの計測要因は検査が特に重要という意味も持ち合わせています。
フレームワークとしての生産の4Mを活用しよう
以上、生産の4M、5M+1E、6Mについて説明しました。生産システムを運用していると、さまざまな問題が発生します。しかし、生産の4M、5M+1E、6Mの視点から分析していくと、問題点を明確にして、素早い対応がとれるようになります。そして、ひいてはそれらが品質の低下を抑え、効率の向上につながっていくでしょう。
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