製造業を中心として現場での作業における永遠のテーマとも言えるのが「ポカヨケ」です。ポカヨケとはどのような目的のために行われるのでしょうか。デジタル技術の革新によって大きく変化しつつあるポカヨケについて、その意味や目的、活用されている技術や企業事例などをご紹介します。
「ポカヨケ」とは?
ポカヨケとはどのような意味を持ち、どういった目的のために生まれた言葉なのでしょうか。その意味や考え方を見ていきましょう。
ポカミスを避けるための対策
現場では「うっかり」や「見落とし」によってミスが発生し、不良発生や機器トラブルにつながることがあります。こういった通常の作業手順を遵守していれば起こり得ないヒューマンエラーを「ポカ」と表現し、このポカミスを「回避する」ための対策を「ポカヨケ」と呼んでいます。
ポカヨケが製造業をはじめとしてさまざまな産業に取り入れられていったのは、トヨタの改善活動が始まりと言われています。現在でもトヨタ生産システムにおいて品質を確保する手段として活用され、この考え方は「Poka-Yoke」として世界の製造現場でも広く認知されています。
ポカヨケの考え方
ポカヨケは基本的に人の意識を改善することではなく、人以外の要素によってミスを防止する仕組みを整える方策を言います。そもそも「ミスをしないように注意しなさい」と注意喚起してミスがなくなるのなら、ポカヨケは必要ありません。
ポカヨケはポカを防ぐための治工具を使ったり、ルールや作業手順を整備したり、新技術を導入したりすることで、人の「うっかり」や「不注意」を防止するための対策です。作業工程において人以外の要素に対策を施す仕組みであるため、基本的に導入の前後で作業者の負担が変わらないことを目指します。むしろ、ポカによって行っていた全数検査や多重チェックなどをなくすことができ、負担を減らすことにもつながります。
ポカヨケの目的
ポカヨケの目的は大きく分けて次の3つです。
- 生産性の向上
- 品質管理
- 作業安全の確保
この3つがポカヨケとどのように結びつくのか、順に見ていきます。
生産性の向上
生産工程の効率を向上させるためには、不良品の削減と生産量の増加が重要です。不良品が少なければ、無駄な時間やコストを削減することができます。定められた作業方法について、ひとつの作業を忘れていたことで不良品を連続生産してしまっているということは珍しいことではありません。また、生産量の増加のためには、生産工程のダウンタイムを減らすことも必要な取り組みです。製造工程で使用する機械の設定をうっかり間違っていたことで、機械が停止し稼働再開まで時間がかかってしまうような状況は、ポカによるダウンタイム発生の典型例です。こういった不良の発生や生産ができていない時間を削減することで、生産性の向上につながります。
品質管理
製品製造工程において、数%の不良品が発生するのは必然と言えます。不良率を0%にするのは非常に難しいことですが、このときに重要なのは、発生した不良品を素早く確実に発見し、迅速に排除して流通しないようにすることです。不良品が市場に出回ることがないようにするためには、製造工程の各段階で厳格な品質管理を行う必要があります。これは製造の工程だけに限ったことではありません。原材料の入荷時における品質検査や、保管や運搬における品質変化も管理することで「想定外の不良発生」=「ポカ」をなくすことにつながります。
作業安全の確保
現場では、ひとつのミスが大きな事故につながるような作業を行う場合もあります。こういった作業では、確実に作業者の安全を守るため徹底的なミス防止策が求められます。ポカヨケは、現場の作業員の安全を守り、労災を防ぐための取り組みとしても重要な意味を持ちます。
ポカヨケを行う4つのポイントと3つの工程
ポカヨケを行う際に重要な4つのポイントと、ポカヨケを進めるうえで必要な3つの工程をご紹介します。
ポカヨケ設定において重要な4つのポイント
ポカミスは主に次の4つの原因によって起こるとされています。
- 認識が欠如している
- 標準が欠如している
- 標準が適切ではない
- 知識・スキル・適性が不足している
ポカヨケを行うときには、上記の4点について作業分析を行い、不足している項目を挙げていくことで取るべき対策が見えやすくなります。
ポカヨケは3つの工程に切り分けて考える
ポカヨケを行うタイミングは時系列に沿って3つの工程に切り分けて考えると対策を進めやすくなります。
- 不良発生「前」の対策
- 不良発生「時」の対策
- 不良発生「後」の対策
不良発生前の対策では、不良が発生する可能性のあるリスクについて検討と評価を行い、技術的な方法によってミスを防ぐ対策を取ります。また、ミスが発生した場合に気付かず次の工程に進むのを防ぐような仕組み・ルールについても考えます。
不良発生時の対策としては、不良の発生を検知する仕組みと、不良検知を即時に通知する仕組みを整える必要があります。安全確保の観点からは、危険につながる異常が発生した場合に機械を停止したり操作をできないようにしたりする仕組みを導入して対策します。
不良発生後には、不良品の流出を確実に防ぐ仕組みが求められます。検査ルールの明確化とともに、不良検出と不良品を除外する仕組みを整備します。
ポカヨケに活用される技術
近年、ポカヨケのためにデジタル技術が活用されるようになってきました。特にポカヨケへの活用で効果が大きいと期待されるのがIoT・AI・エッジコンピューティングの3つの技術です。これらの技術は、ポカヨケへの活用においてそれぞれどのような効果があるのでしょうか。
IoT
あらゆるモノをネットワークに接続しデータを受け取ることのできるIoTは、ポカヨケの対策としても大きな変化をもたらした技術と言えます。センサーによって検知されたデータは、瞬時に異常を検知するのに活用できます。ワークを載せる作業台や、作業に使用する工具でさえ、IoTを活用することで異常を検知できるようになるため、作業者の一挙一動についてさまざまなポカヨケ対策を取ることが可能になります。
AI
従来は、「判断する」「判別する」という作業は人にしかできないものでした。しかし、これを変えたのがAIの登場です。AIを活用することで、「判断する機能」を人に変わって機械に持たせることができます。例えば、AIの活用によって、カメラを通じて得た視覚情報から不良品を判断するような技術は、すでに導入が進んでいます。AIの活用によって不良検出や異常検出の判断を自動化できることで、ポカヨケの自動化・高精度化も可能になっています。
エッジコンピューティング
ポカヨケは、「うっかり」や「不注意」によって起きるミスを瞬時に通知することで、次工程への不良品流出を防ぐことが重要です。こういったミス発見と通知のリアルタイム性に大きく貢献するのがエッジコンピューティングです。
エッジコンピューティングは、現場に近い場所にあるコンピューターとクラウドサービスのような離れた場所にあるコンピューターのどちらでデータの処理を行うか振り分けます。これにより、処理の高速化を可能にします。処理が高速化することによって、得られたデータ、または処理後に出された指令のリアルタイム性が向上します。
ポカヨケにIoTやAIを活用する際は、ネットワークの遅延によって不良品の検出や異常発生の通知が遅れる可能性があります。また、ネットワーク接続の異常、クラウドサービスのダウンなどによってポカヨケのシステムが使えなくなることも考えられます。これらの不具合が、エッジコンピューティングでの分散型の処理によって回避できます。処理の高速化とデータのリアルタイム性向上、稼働継続性の確保といった面で、ポカヨケにエッジコンピューティングを活用する価値は高いと言えます。
企業が実施しているポカヨケの事例
実際に、次のようなポカヨケに取り組んでいる企業の事例があります。
工具のIoT化でポカヨケ
工具を使う作業では、その工具が適切に使われているかどうかによってポカミスにつながる手順違いの発生を感知することができます。トルクレンチによる締め付けや、圧着工具による端子圧着など、適切な工具使用によってポカヨケとすることが可能です。工具にセンサーや送受信機を取り付け、工具が使用されずにワークが通過した場合に通知したり、異なる手順で工具が使用された場合に通知したりといった対策があります。
画像処理システムでポカヨケ
画像処理システムによってミスを検知するポカヨケは、製造の現場で導入が進んでいます。例えば、カメラによって取得した画像から検出範囲内の色面積を計測し、色部品の付け忘れや位置ずれを検知できます。画像処理システムの発達により、これまでは人の目で判断していたことを機械が自動で判断・判別が可能になり、ポカヨケとしても幅広く活用できるようになりました。
セル生産方式を完全支援するポカヨケシステム
1人または少人数の作業者チームによって製品の組み立て工程を完成まで受け持つセル生産方式では、少人数で作業するがゆえにポカミスの影響も大きくなります。そこで、ポカヨケを行う支援システムが注目されています。
次の作業で使用するネジをインターフェースに表示、部品トレイから取るネジや部品をカメラによって認識して、指示と異なる部品を取った場合にはアラームを鳴らすことでポカミスを防ぎます。また、ネジを締める際のトルクや部品取り付け状況の良否判定も行います。これらのデータを蓄積・分析することで、作業者の教育や設計見直しにも活かしていけるでしょう。
ポカヨケとデジタル技術が結びつくことでさらに高次元のミス防止対策
ポカヨケはさまざまな手法が研究されてきましたが、近年のIoTの普及やAIの実用化、それらを高速化・安定化させるエッジコンピューティングとの組み合わせなど、デジタル技術の発達によってポカヨケの手法も大きな変化を遂げています。従来は教育や表示、マニュアル整備が主だったポカヨケは、デジタル技術の活用が主流となりつつあり、さらに精度の高いミス防止が可能になっています。ポカヨケにもデジタル技術の応用によるイノベーションが起きていると言えるのではないでしょうか。
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