AGVは製造や物流の現場で活躍する搬送機器です。人に代わってものを運ぶという役割によって、どのようなメリットを生み出すのでしょうか。AGV活用の効果やAGVの種類、AGVの運用と進化に大きな影響を与えると考えられる技術との組み合わせなどについてご紹介します。
物流で活躍するAGV
AGVは物流を中心に広く活躍しています。AGVはどういった役割を持つものなのか、特徴を見ていきましょう。
AGVとは
AGVは「Automatic Guided Vehicle」の略で、日本では無人搬送車、または無人搬送ロボットと呼ばれることもあります。産業に使われるロボットという意味では産業用ロボットと共通していますが、「移動する」という点に関して、産業用ロボットとは大きな違いがあります。一般的に、産業用ロボットは設置された場所から動かずに作業をするロボットを指します
一方AGVは、人ではない荷物を搬送するための車両全般のことを言います。AGVにはさまざまな形状のものがありますが、大手ショッピングサイトAmazonの倉庫で稼働している映像が印象に残っている人も多いのではないでしょうか。AGVは、産業用ロボットと並び物流や製造業に不可欠な存在となりつつあります。新技術として紹介されることも多く、近年登場したものと思われるかもしれませんが、実は1980年代から使われ始めています。
初期のAGVは、床に貼られた磁気テープの上を走行する仕組みのものだけでした。しかし、センシング技術の進化、さらにはAI(人工知能)の活用により、自分で考えながら移動するAGVも登場し、大きな進化を遂げました。
また、製造や物流の現場から普及し始めたAGVですが、今ではさまざまな分野へと活躍の場を広げています。すでに、農業分野において温室農場内での収穫物の運搬、医療分野における薬や書類の運搬などに利用されていて、今後さらに多方面での活用が期待されているのです。
AGVとAMRの違い
AGVと用途や機能が似ている部分があり、混同されがちなものとしてAMRがあります。AMRは「Autonomous Mobile Robot」の略で、「自律移動式ロボット」のことを言います。
AGVとAMRの大きな違いは、誘導式か自律式かという点です。AGVは誘導するための誘導体によってルートを決めますが、AMRはカメラやセンサーによるセンシングによって自己位置を推定し、ルート生成をしながら進みます。
しかし、近年ではAGVの誘導体が進化した結果、AMRと同様にセンシング技術を活用するようになっています。そのため、AGVとAMRの境界線はあいまいになりつつあります。AMRは次世代AGVと呼ばれることも多く、今や区分されないことも少なくありません。
AMRについて、詳しくはこちらでご紹介しておりますのでご覧ください。
AMRの特徴と導入の成功事例、運用の可能性と必要技術をご紹介 |Stratus Blog
AGV活用が生み出すメリット
AGVを活用することで次のようなメリットが期待できます。
作業効率の向上
製造業においては、部品や製品を人が運ぶ必要がなくなり、運搬工程の効率が向上します。また、必要なタイミングで必要なものをAGVが運んできてくれる仕組みを作ることができ、工程における作業の効率も上がります。
物流においては、人が倉庫内を回って行っていたピッキング作業が大きく変わります。AGVが棚ごと商品を人のもとへと運んでくることで、人の移動時間を削減でき作業効率が向上します。
作業負荷の軽減
人力で運んでいたものをAGVが代わりに運ぶことで、人は重いものを運ばなくてすむようになり、身体への負担を軽減できます。また、重量物を運ぶためにフォークリフトやクレーンなどを使う場合には操作に資格が必要ですが、AGVを活用することで資格保有者でなければできない作業を減らすことができます。
省力化・省人化
AGVを活用することで、AGVが人に代わって効率良くものを運ぶことができるため、人の作業は省力化されます。省力化を積み重ねることにより省人化が達成され、人は判断が求められる業務や創造性の高い業務へと専念することができます。
作業の正確性向上
AGVは、制御システムによって定められた場所へ正確にものを運ぶことができます。これにより人為的ミスを防止でき、作業の効率化が可能なだけでなく作業品質の向上にもつながります。
工場内レイアウトの柔軟性確保
従来のような人による運搬では、ミスのしにくい保管場所や、フォークリフトやパレットの幅を考慮した通路などから工場内のレイアウトを決める必要がありました。しかし、AGVは制御により、保管場所が変わってもミスの心配がなく、通路も自由に設定できます。そのため、工場内レイアウトに柔軟性が生まれ、需要や生産体制の変化に対応しやすくなります。
AGVの搬送方法と走行方式での分類と活用例
AGVにはさまざまな種類がありますが、搬送方法と走行方式によって大きく分けることができます。
搬送方法の種類
- 積載型
AGVの上に荷物を積んで運ぶものや、AGVが棚ごと持ち上げて運搬するものは積載型に分類されます。Amazonの倉庫で使われているものが有名ですが、全国の物流拠点でも広く活用されています。基本の形は人の手によって荷物を載せる方法ですが、コンベアや産業用ロボットなどによって載せるように制御もでき、積載方法も進化しています。 - けん引型
台車やトレーラーをけん引して移動するタイプです。製造業で早くから使われています。駆動力を持つけん引車が複数の台車をけん引するものや、複数の台車のうち先頭の台車の下に潜り込んでけん引するものなどがあります。けん引型は荷物の量によって台車の数を変えたり、荷姿に合わせて台車の大きさを変えたりすることができ、柔軟性があります。 - フォークリフト型
フォークリフトのようにマストとフォークがあり、パレットを運搬するのに適したタイプです。人が操作するフォークリフトと同じ規格のパレットを運搬できるため、パレット搬送を基準としている場合に荷姿の変更をする必要がありません。
走行方式の種類
- 経路誘導式
あらかじめ移動する経路を定め、その経路に誘導するための誘導体を設置し、その経路上を移動する方式です。誘導体としては主に磁気テープが使われていましたが、光反射テープや電磁誘導ケーブル、カラーテープなど、さまざまな誘導体が開発されています。磁気テープより設置は簡単になっていますが、経路変更には誘導体の再設置が必要になります。広く普及していることもあり、一般的に低コストで導入できます。 - 自律移動式
自己位置推定機能と走行制御機能によって、自律的な走行を可能にした方式です。AMRもこれに含まれます。レーザーレンジファインダーやカメラによって、壁や柱などとの距離を測定します。誘導体がなくても自律的に走行でき、経路変更も容易です。常に現在位置を推定しながら、最適なルートを選定し進んでいくことができます。 - 追従式
人や、人が操作する車両などに対し、一定の距離を保って追従しながら移動する方式です。人の動きを追従するためルートの自由度が高く、誘導体や高度な画像処理システムも必要ありません。ひとりの人が、多くの荷物を負担なく運ぶことが可能になります。
AGVとエッジコンピューティング
このようにAGVは多様化し、ひとつの現場で大量に使われることも珍しくなくなりました。そういった複数のAGVが同時に可動するような環境において、安定制御に不可欠な技術として注目されるのがエッジコンピューティングです。
分散型の処理により、多数のAGVを同時稼働した場合でも現場ごとに適した制御でスムーズな走行が可能になります。また、処理のリアルタイム性が向上したことで、その瞬間ごとの状況に応じた制御が可能になり、搬送効率が向上します。
今後、AGVとAIの組み合わせにより自律的な判断で走行するAGVの開発が進めば、カメラやセンサーから得る情報のリアルタイム性がより重要になっていくでしょう。その場合、エッジコンピューティングの併用により複数のAGVをよりスムーズに、より安全で確実に走行させることが可能になります。
また、AGVの制御に使われる通信は5Gが基準となりつつあります。5Gの多数同時接続や超低遅延といった特徴を活用するためにも、エッジコンピューティングは重要な役割を果たします。
5Gの性能を生かすためのモバイル通信用エッジコンピューティングであるMECについて、こちらの記事で解説しております。
MECとエッジコンピューティングの違いとは?工場の5G活用に必要なネットワーク技術 |Stratus Blog
エッジコンピューティングは、これからのAGV活用にとって重要な要素技術となっていくことが予想されます。
AGVの活用で製造・物流の現場が変わる
AGVの概要や活用のメリット、積載方法や走行方式による分類、これからさらに重要度が高くなると予想されるエッジコンピューティングとの関わりについてご紹介しました。
AGVは人に代わってものを運ぶという役割を追求し続け、運搬工程以外における人の作業効率さえもAGVの動きによって補助することができるようになってきています。また、自律的な移動をするAGVの導入も進み、多数のAGVから送られる大量の情報を素早く正確に処理する必要性が高まっています。
こういった変化のなかで、情報処理の正確性とリアルタイム性の向上に大きな役割を果たしているのがエッジコンピューティングです。今後さらに進化することが考えられるAGVの制御に、エッジコンピューティングは不可欠なものとなっていくのではないでしょうか。