ホーム デジタルトランスフォーメーション ペイメント研究会コラム(第4回) – 最近の動向 / 加速する新しい動き

前回(第3回)のコラムでは消費増税・東京オリンピックに向けた動きがキャッシュレス比率向上のきっかけになるかを論じました。いよいよ消費増税まで100日を切り実施が間近に迫っている状況下*1で、今回はペイメントの今後に影響を及ぼす、消費増税以外の最近の動向に着目したいと思います。(*1:6月24日時点)

最近注目度が高かった話題としては、「祝令和全員にあげちゃう300億円祭」と題してLINEユーザ間で千円のボーナスをLINE Payを介して送り合うという形式でのキャンペーンが5月20日から実施され、1か月経過を待たず6月10日に予定の300億円に達し終了したとの発表がありました。LINE Payではその後も利用時のクーポン等を次々と提供しており、キャンペーンでユーザを大量に獲得し、その直後に実際のLINE Pay利用への誘導に少なからぬ資金を投じています。

まずPayPayが「総額100億円還元」をうたうキャンペーンを昨年末と今春に実施、それに対抗するようにLINEがアクションを起こした形ですが、それ以外にも楽天ペイが初回利用時に300ポイント、その後も7月1日まで5%ポイント還元といったキャンペーンを展開しており、ユーザ獲得競争が過熱しています。第2回のコラムでは「ソフトバンク、ヤフージャパン(左記2社はPayPayの株主)、LINE、楽天といった他のIT分野で既に成功を収めた、資金量が豊富で既存の業界秩序と距離を置くプレーヤーは大きな変化を生み出すポテンシャルを持っている」と書きましたが、その4社+メルカリ(メルペイ)がまさしく大量の手持ち資金を原資に競争をリードしようとしている様相です。

加盟店の獲得競争も激化しており、各社とも加盟店向けのキャンペーンを同時に展開しています。前回述べた政府のキャッシュレス・消費者還元事業の施行(10月1日)までに少しでも多くのユーザと加盟店を取り込むことを目指し、各社がこのタイミングで攻勢をかけてきているのは明らかです。

一方、流通等大手でもユーザ獲得に向けた動きがあり、例えばヨドバシカメラでは「20%ポイント還元祭り」と題して、期間限定でポイント20%還元のキャッシュレス決済キャンペーンを開催しました。交通系カードを使ったキャッシュレス決済で先行するJR各社も従来からポイント付与、利便性向上(モバイルSuica等)の施策を通じユーザ獲得を図っていましたが、キャッシュレス化の推進に向けた連携として、2020年春に、「楽天ペイ」アプリ内で「Suica」の発行やチャージが可能になると6月5日付で発表されました。昨年8月にみずほ銀行と連携し、「みずほWallet」アプリからSuicaカードを発行できる「Mizuho Suica」の提供を始めたことに続く動きとなっています。

このような状況を目の当たりにし、ペイメント分野における新規参入・既存事業者、流通等大手の様々な競合、協業の動きが活発化し、政府も後押しする形で大きな流れが生まれようとしているようにも思えます。

その一方で政府の上記還元事業については、加盟店側の準備が十分に進んでいないとの見方もあります。還元事業について制度対象の中心となる中小企業に対し商工会議所が4月に行った調査では、制度に申し込む予定の企業は34%のみ、自社が対象かが分からないという企業も31%あったと報じられています。制度の内容や端末を導入するメリットが分からないなどの声もあがっているようで、政府による周知徹底が必要との指摘もあります。

また、これはあくまで我々ペイメント研究会メンバーが持っている印象ですが、クレジットカード決済、交通系カード決済に慣れた日本人にとって新規参入事業者が提供するバーコード決済は案外ハードルが高いようにみえます。キャンペーン等で盛り上げても、消費者に実際に利用を促すのは大変なようで、我々の周りにいる情報技術やペイメントの動向に一定の理解があり、消費行動も比較的保守的ではない人達でも、バーコード決済を実際に使ったという人が案外少ないという印象を持っています。同様の状況は香港でも見ることができ、クレジットカードと交通系ICカード(Octopus)の利用が進み現金決済も多い中、AlipayやWeChatPayといったQRコード決済の普及はあまり進んでいないのが現状です。

上記についてブレークスルーとなり得る要因として外圧(訪日客)が考えられます。今年の観光白書によると外国人旅行者の国内での消費額は4兆5189億円で、半導体等電子部品の輸出額を上回り日本全体の消費に相当寄与しているとしています。政府は来年同消費額を8兆円とすることを目標としており、白書ではそのためにキャッシュレス決済可能な場所を増やすことが必要としています。訪日客3119万人の27%に当る838万人が中国からの訪日客で、QRコード決済に慣れ親しんでいる人達です。PayPayはその加盟店がAlipayも取り扱えることを加盟店への訴求点にしています。また、コンビニエンスストアにおけるQR/バーコード決済への対応も本格化が進んでいます。訪日客の増加と共にこのような動きが進めば、QR/バーコード決済の普及も進むと考えられます。

今回は様々な動向がみられるなか、それをひとつひとつ取り上げながらその影響について考えるという試みの結果、少しとりとめのないお話になってしまったかもしれませんが、今後ますます興味深い展開が期待できそうです。

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