ホーム リーダーシップ 働き方改革への視点 ~日本ストラタステクノロジー 社長ブログvol.1

働き方改革への視点 ~日本ストラタステクノロジー 社長ブログvol.1

最近、よく目にするトピックスとして“働き方改革”があります。多くの企業で自社の取組に関して広報の対象にもしているようです。政府は昨年来より働き方改革実現会議を設置しています。このような動向の背景にはどのようなことがあるのでしょうか。ひとつには日本人の長時間労働の習慣による生産性の低さがあります。日本のGDPは世界3位ですが、一人当たりのGDP順位は22位であり、決して先進国中でトップグループではありません。また、長時間労働を原因とした生命や健康被害にかかわる非常に残念な事件が続発しました。しかも、日本を代表するような企業で発生したことで、世間の厳しい目にさらされました。さらには、非正規労働者の増加による賃金格差の増大がもたらす諸問題があります。企業の業績が好調でも。それが賃金上昇や消費の活性化に結び付いていないということです。

私自身は自分の経験をベースにしかお話できませんが、外資系企業に35年以上勤務した経験からすると、働き方改革のキーポイントは労働市場の流動性つまり転職のハードルを低くすることにあると考えます。もちろん、ICT業界の人間としては、コンピュータやネットワーク技術の進歩により、在宅勤務や遠隔地間会議が容易になったことが、仕事の効率性を高めるツールを獲得したという意味では重要であると考えます。しかし、キーポイントは転職がしやすくなることにより、働き手の側から就業環境を選べるようになることにあると考えます。ところで、米国のビジネスマンが長時間働かないかというと、実は一部の人々は日本以上にモーレツに働いています。シリコンバレーやウォールストリートで働くエリートが勤務時間や勤務間インターバルを強く意識しているとは考えにくいです。顧客に時間課金するタイプの法務などの職種は別ですが。一方で、彼らには高給を得る機会と転職の機会があります。現在の仕事の環境とは異なる環境で仕事をしようと思えば、スキルと意志があれば実現できます。また、意志を持って転職するケースとは別に、業績を理由とした解雇のリスクも常にあります。そのために、多くの人が人的ネットワークを大事にしています。親分子分の関係性も結構強くて、ボスが転職するとチームメンバーが後について転職するなどということもあります。日本の社員のように、仕事の環境を変えたいと思っても転職のリスクを過大視して、現在勤務している会社にしがみつくという度合は低いです。

高給のエリート層やエグゼクティブ層以外の一般社員はどうでしょうか。本当に必要な時以外は残業をしていません。1990年代の数年間米国勤務をした際の経験ですと、6時過ぎにはほとんどオフィースには誰もいませんでした。日本の午前中に電話が入る可能性があるということで米国のオフィースに残っていると、最後に私がフロアーの電気を消すことになったことが多いです。尚、労働市場の流動性、つまり転職の機会は、特別なエリートだけではなく一般的な社員にもあります。もちろん、持っているスキルやビジネス経験によって転職の容易性は異なりますが。

今年に入って、時間外労働の上限規制や勤務間インターバル制度の努力義務などが“労使合意”されました。長時間労働を規制するための具体的な支援や法制度に結び付いていくのだと考えます。一方で、これらの規制や制度が実現された後にも、現実の問題としてどうしても就業環境がライフスタイルや健康状況に合わない場合が発生するはずです。その際には、現在勤務している会社ではなく、より自分に合った就業環境を提供する別な会社を選べる可能性があるということは重要だと考えます。また、非正規労働者が、流動性の高い労働市場の中で正規雇用者になる機会があるということも意味がある事ではないでしょうか。もっとも、欧米では期限を切った契約社員なども、そのスキルによっては高額の報酬を得ているので、正規雇用者になるという道とは別に自分の働き方に報酬制度が合った会社を選ぶという道もあるかもしれません。

私は、労働市場の流動性が高まるという方向性に関しては楽観的です。それは決して企業の解雇に関するハードルを低くするという意味ではありません。むしろ、就業環境や給与、そして評価制度で企業が競争することを促進して、人材を確保する競争が増加する中で流動性が高まるという考えです。15歳以上で65歳未満の生産年齢人口が減少していきますので、企業の側の人材を確保するための競争が増える可能性は高いです。企業はこの競争の中で磨かれていくでしょう。また、社員の側も、企業固有の制度や慣習の中でだけ通用するスキルではなく、所属する業界や専門分野でより一般的に通用するスキルを身につける必要が高まるでしょう。そのような意味で社員の側も常にスキルのアップデートが必要であり、磨かれることになります。

関連記事