ホーム エッジ コンピューティング 製造業とIoT―導入のメリットや取り組み事例をご紹介

製造業にとって今やIoTは切り離すことのできない存在となりつつあります。製造業とIoTが結びつくことでどのようなことができるようになり、どういったメリットがもたらされるのでしょうか。製造業とIoTの関係、製造業においてIoTに取り組んでいる事例などをご紹介します。

製造業とIoTの関係とは

製造業とIoTは親和性が高く、IoTの活用は製造業にとって当然のこととなりつつあります。どのようにしてIoTが製造業に取り入れられていったのでしょうか。

広がるIoTの意味と役割

IoTはInternet of Thingsの略で、日本では「モノのインターネット」と呼ばれています。従来、ネットワークに接続される機器は、コンピューターや携帯電話など限られた機器だけでした。しかし、IoTではあらゆるモノをインターネットに接続し、そこから得たデータによって離れた場所からもモノの状態を把握したり、操作したりといったことが可能になります。
データの収集には、センサーが使用されます。従来のセンサーでは細やかなデータを感知することができず、できたとしてもデータが大きくなるため送受信が課題となりました。さらに、あらゆるモノに取り付けられたセンサーからデータが送られたとしたら、従来の通信網では対応することは不可能でした。
これを解決したのが、センサー技術の発達とネットワーク(通信)技術の進化です。これらの技術進歩によって、IoTの実用化と普及が実現したと言えます。
IoTの活用は情報の見える化や遠隔操作だけにとどまりません。IoTによって収集したデータはビッグデータとして蓄積され、AIによる分析でさらに活用の可能性が広がっています。モノのインターネットと言われるように、従来はモノに関してのみ適用されていたIoTですが、活用の可能性はさらに大きくなっています。人の動きや業務の内容、それらが複合的につながることも、IoTによって活用されるように変化しています。

製造業とIoTの結びつき

従来から製造業では、センサーの活用は重要なものでした。PLCや産業用PCのような制御機器も、センサーから送られる信号がなければ機能しません。生産の自動化を進めるうえで、センサーの活用は不可欠なものでした。
このようにセンサーとデータの活用が浸透している製造業においても、IoTは登場とともに取り入れられていきました。例えば、製造機械にIoT技術を導入することで、稼働状況に関する情報や品質のデータなどを取得し可視化、分析が可能になります。さらに生産効率を高めるために、製造業にとってIoT技術はなくてはならないものとなっていきました。
2017年の経済産業省「ものづくり白書」では、「データ収集・活用を主導する部門」として製造部門が最多の44.8%となっています。こうしたIoTによるデータの収集と活用は、大企業だけでなく中小企業にも広く導入されるようになっています。しかし、その後に続く2018年調査からはデータ収集を行う中心部門は経営層や経営戦略部門へと移行し、2019年調査ではデータ収集に取り組む企業の割合は減少しています。さらに2020年調査では、データを実際に役立てている企業の割合も伸びていないことから、データの活用が日本の企業にとって課題となっていることも浮き彫りになっています。
このように、IoTによるデータの活用には大きな可能性があるものの、一定割合からは導入が進んでいないことが読み取れます。製造業とIoTの結びつきは、ものづくりにおける生産性を大きく向上させることが可能です。このような大きな産業構造の変化から、IoTによるデータの活用が第4次産業革命となるのではと言われています。

製造業でIoTを活用するメリット

製造業にIoTを導入・活用することでどのようなメリットがあり、どういったことが可能になるのでしょうか。業種や業態によってさまざまな活用方法の可能性がありますが、製造業に共通するメリットとして次のような点が挙げられます。

生産工程での自動化・省力化・省人化

製造業において代表的な自動化といえば、搬送機械による搬送工程の自動化や、ロボットによる加工工程の自動化などです。従来のこういった自動機器は、定められたプログラムによって決まった動きをするものでした。しかし、IoTによってリアルタイムに機器の状況を把握できることで、トラブル発生時に迅速な対処が可能になります。また、これまでは現場で人の手による作業や、人の目による監視が必要だった工程も、遠隔からの操作や監視が可能になります。これにより、作業者が複数の現場を受け持つことが可能になり、省力化・省人化を進めることができます。
このように、IoTは生産工程の自動化、省力化と省人化の実現を可能にします。

予知保全の実現・稼働率の向上

IoTにより、機器の各部から送られるデータを分析することで異常の兆候を発見し、トラブル発生を未然に防ぐことも可能です。収集されたデータをAIによって分析することで、トラブル防止の精度は上がり、さらにトラブル発生時の対処も可能になっていくことが予想されます。機械が故障する兆候を早期に発見することで、メンテナンスのタイミングを任意に設定しやすくなります。稼働予定のない日時にメンテナンスを行い、機械の稼働率を確保することができます。

業務改善へのデータ活用

IoTによって収集されたデータは、リアルタイムな状況を見るためだけでなく、蓄積して分析することで業務の改善に活用可能です。現場での人やモノの動きを、ウェアラブルデバイスやICタグによって把握することができ、動線や移動量の効率化に生かすことができます。また、生産工程における作業も、工具や機器のセンサーから送られるデータを収集し、人の動きを画像処理によって分析することでデータを蓄積できます。分析結果から、標準化につなげていくことや、さらに効率的な作業方法を考えることも可能になります。

商品開発への活用・ビジネスモデルの革新

自社の商品や製造技術にIoTを取り入れることで、新たな商品の開発につなげることが可能です。IoTを組み合わせることによって遠隔から状況を見たり、操作できたりといった機能を付加した商品はすでに多くの企業で開発されています。こういった直接的な機能付加だけでなく、IoTの活用によって可能になるアフターサービスの提供や、使用状況を分析することでよりよい商品の提案なども可能です。また、自社内でIoTを活用することで、製造する商品やサービスについて他社との差別化を図ることがきる可能性もあります。IoTの活用によって、これまでにない新たなビジネスモデルの確立も可能です。

製造業にIoTを導入するためのポイント

製造業にIoTを導入する際には、次のようなポイントに注意することでより高い効果が期待できます。

課題と目的の明確化

IoTを導入する前に、なぜIoTが必要なのか、IoTによってどのようなことを解決したいのかを明確にしておく必要があります。これらのことが明確になっていなければ、IoTを十分に活用できずに導入効果を上げることができません。導入目的を明確にするためには、生産工程において作業分析を行い、工程ごとに課題を発見するところから始めます。ここから、どういったIoT技術を導入すればその課題を解決できるのかを考えます。
このように、IoTの導入前に課題と目的を明確化しておくことが重要です。

段階的なIoTの導入

複雑なIoT技術を一度に導入すると、現場の混乱を招くだけでなく、かえって生産効率を落としてしまう結果にもつながりかねません。また、新しいシステムや作業方法に拒否感を示す従業員は一定数いることも考慮する必要があります。こういった問題を大きくせずにIoTの活用を始めるため、データの収集・蓄積・見える化・分析といった4段階で導入を進めていきます。
生産設備にセンサーやカメラを設置し、データの収集環境を整えます。
次に、データを蓄積するための場所を確保します。このとき、クラウドに蓄積するのか、社内で保管するのかも決定します。処理速度とデータの安全性向上が求められる場合、おすすめなのは分散処理を可能にするエッジコンピューティングの活用です。
こうして蓄積されたデータから、システムを用いて生産状況の見える化へと進めます。段取り中や異常検知の場合もリアルタイムな状況を把握できるようになります。
そして、蓄積されたデータを分析し、次の課題発見や問題解決へと活用していきます。
これらの4段階において、それぞれに適したソリューションを選定して導入することで自社の生産規模や業態に適したシステムの構築が可能になります。

データ活用方法の進化・深化

このような4段階の導入を進めることで、現場で使いやすい仕組みの構築が可能になり、さらなる効率化に向けた改善案も生まれてきます。データを見える化して完了ではなく、課題の改善を繰り返し新たなビジネスに生かすような、その先の活用方法を考えることで、IoTの導入効果をさらに高めていけます。

製造業のIoTへの取り組み

製造業とIoTは親和性が高く、導入と活用によってさまざまな効果を生み出しています。しかし、一言で製造業と言っても、製品の特性や種類、製造工程や製造方法によってIoTの使い方は大きく異なります。製造業ではIoTを導入することはもはや当然になりつつありますが、生産状況の見える化だけでなくさらに一歩進んだ活用をしている企業も少なくありません。
製造業の企業がどのようにIoT活用に取り組んでいるのか、事例を見ていきましょう。

職人技術にIoTを融合させ作業期間を短縮

老舗の製品染め工場では、受注前にサンプルテストとしてテスト用素材の染色をしています。従来はこの工程に約2週間かかり、繁忙期には染色用の容器が足りなくなり受注を取りこぼす可能性がありました。また、色の調合は職人の勘によって行われ、微妙な誤差が生じていました。
そこで導入されたのが、業務管理システムとCCM(Computer Color Matching)です。色素と素材のパターンをCCM システムに登録することで、これまで職人のカンによって判断していたものをデジタルデータへと置き換えました。これにより染色品質を平準化し、作業期間の大幅な短縮に成功しています。また、業務管理システムによって受注内容や納期、作業状況が一元管理され工場内の進捗状況把握を可能にしました。

センサーで不良品発生要因を検出・除去

IoTに欠かせないセンサーを製造する工場においても、IoT活用をさらに進めることで効率化に成功しています。高精度工業用センサーを製造する企業では、生産管理システムによって製造時に取り扱う1万点もの部品を自動発注する仕組みを構築しています。同時に、適正な在庫管理、必要なタイミングで必要な部品の供給も可能にしました。
こうした作業を自動化することによって、高い付加価値のある製品製造や改良といった創造的な業務を行う時間を作ることに成功しています。

製造指示と生産システムをIoT化してミス防止

樹脂製品の製造工程において必要となる、添加剤(マスターバッチ)を作る企業では、紙で印刷された製造指示書によって作業を行っていました。数多くの原材料を計量し、記録、配合、検査も手作業で行っていましたが、ヒューマンエラーが課題となっていました。ここにIoT技術を用いた計量システムを導入、基幹システムと連携させることで、製造指示も自動化されました。原材料の誤使用や誤計量が減り、記録も自動入出力されるようになり工数削減も実現、労働生産性が大きく向上することになったのです。

IoTによって熱処理炉の稼働を見える化・対応迅速化

金属の熱処理加工を行う企業では、夜間は無人で運転する熱処理炉がトラブルにより停止した際に対処するため、頻繁に稼働状況を確認しに行く必要がありました。ここにIoTによる監視システムを導入することで、管理者は遠隔から監視と操作ができるようになりました。また、災害発生のような緊急時にはすぐに強制停止できるようになり、安全性を高めることにも成功しています。

製造機械と生産管理を直結して効率的な製品管理

プラスチック成形を行う企業では、複数のメーカーの成形機を導入していることもあり紙での管理を行っていました。こういった状況に対し、新たに導入された生産管理システムでは、メーカーの異なる成形機とも接続可能で、生産データの蓄積と分析も可能になりました。データ分析によって今後の受注予測や適正在庫管理が可能になり、生産管理の業務が効率化されることで生産体制全体の精度が向上しています。

IoTによって製造業は大きく変わる

IoTはすでに製造業を大きく変貌させつつあり、今後も生産現場におけるデータの活用方法がより重要なものとなっていくと考えられます。生産に使う機械や装置からデータを収集することは前提となり、そのデータを活用できるかどうかが生産性に大きく関わっていくのではないでしょうか。
製造サイクルによって生産性が大きく変わる製造業においては、データの活用においてもリアルタイム性が求められるようになっていきます。データのリアルタイム性が、製造装置やロボットの動作に関わってくるため、IoTにおける処理と送受信の速度が重要となります。このとき、データのリアルタイム性を高める技術として注目されるのがエッジコンピューティングです。IoTとエッジコンピューティングを組み合わせることで、製造業におけるデータ活用はさらに広い可能性を持つことが可能になります。

エッジコンピューティングの概要については、こちらの記事もご参照ください。
エッジコンピューティングがなぜ注目されるのか―クラウド・オンプレミスとの違いとは|Stratus Blog

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