社会人になった際に就職したのは電子計測機器ビジネスが中核の会社でしたので、社内では計測に関する用語があふれていました。自分自身はややマイナーなビジネスコンピューターの部門にいたのですが、なぜかBASIC言語を使用して、計測器からのデータを処理してファイルに蓄積したり、分析した結果をプロッターに出力するプログラムを作ったりした経験があります。もう40年近く前のことですが、計測データのやり取りをする際に、ある特定のベンダーの特定の計測機器を使用したデータでないと、技術者がお互いに信用しないといったこともあったようです。部品の互換性を確保するために必要と考えたのです。
実は、エッジコンピューティングの成長領域であります装置産業や機械産業には、長年の工業計測の歴史があります。ひとつには、製鉄,化学,石油精製,電力などの装置産業で行われるプロセス工業計測。そして、機械産業,精密機械工業,電子機器工業など加工や組立てを主とする機械工業計測です。品質や資源エネルギーなどの合理的管理を行うことや、製造工程の自動化による大量生産を可能にすることを目的にして工業計測は発展しました。
計測して数値化するという行為は、現在では工業計測の分野に限らず、格段に範囲が広がっています。広がっている理由は、センサー技術の発展によるものです。スマートセンサーが安価になったことにより各種デバイスで使われることが多くなり、人間の脈拍や体温など健康管理技術や建築・交通への利用頻度が高まっています。わたしの知人にもスマートウォッチを使用している人が何人かいます。睡眠時間・睡眠効率・安眠度などの睡眠管理や、エクササイズ時の心拍数や血中酸素、あるいは歩数や消費カロリーの計測管理などを行っています。
リモートセンシングは、離れた場所のデータを計測したり、離れた場所の装置を遠隔操作したりするためのセンシング技術として使われる場合が多く、宇宙・航空といった人間との位置関係が極端に遠い分野で利用されています。但し、位置関係がもう少し近い分野でもリモートセンシングは使われています。例えば、農業における利用はその一例です。そして、これからますます加速度的に広がっていく再生可能エネルギー、つまり太陽光・風力・地熱・バイオマスといった分野で使われています。先般、経産省が「エネルギー基本計画」の改定案を示しました。2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする政府目標の達成に向け、再生可能エネルギーの拡大について、初めて「最優先」で取り組むと打ち出したようです。「電源構成」の2030年度見通しも示され、現行計画で22~24%の再生可能エネルギーは36~38%に大きく引き上げられたようです。
このように考えてみると、エッジコンピューター の利用用途はますます拡大し、市場が成長していくことが約束されているように感じます。単純化すると、センシング技術が発展して計測されたデータが重要な意味を持つような分野では、すべてエッジコンピューターの需要があるからです。もちろん、エッジコンピューターの形態はバラエティに富んだものになることが想定されます。先ほどの健康管理や睡眠管理を目的としたセンサーに近いところにあるエッジコンピューターは、携帯電話の形をしているかもしれません。宇宙・航空、そして自動車に車載されるエッジコンピューターは、衝撃や温度変化などに対して特別に耐久性のある機器になるかもしれません。再生可能エネルギーを管理するためのエッジコンピューターは、可用性や保守性のレベルが発電装置のレベルや時間軸に近いことが必要になってきます。
当社のエッジコンピューターの設計思想は、“シンプルであること、堅牢であること、そして自律的であること”です。また、仮想化技術や無停止技術を実装しています。これまでは、伝統的な工業計測の周辺で利用されていることが多く、製品自体が市場要求の少し先を行き過ぎている印象もありました。しかし、スマートセンシングやリモートセンシングがより一般的に使われるようになってきた際には、この設計思想や基礎技術はより一層いきていくものです。それは、近い将来のことではなく、明日のことであると考えます。