討論会で感じた米国と日本の選挙文化
先週は米国発のニュースに注目する機会が何度かありました。ひとつは、大統領選挙の第一回テレビ討論会です。CNNやMSNBCなどのニュースをいくつか観ました。現職のバイデン大統領の討論会に挑む様子や発言に覇気がなく、言葉につまることも多く、高齢に対する不安が表出しました。ニュースは民主党がこの結果によるパニックからどのように回復するべきかという内容のものが多かったです。前回の大統領選挙でバイデン氏を支持したニューヨークタイムズは、バイデン氏の選挙戦からの撤退を推奨する記事を出しました。今週に入り、バイデン大統領は候補としての活動を継続することを宣言しています。また、民主党の将来の候補とみられる有力議員にも大きな動きはなく、現職のバイデン氏と前職のトランプ氏の対決という図式は変化の兆しはありません。しかし、いつ何時候補が代わるかもしれないという可能性は残り、予断を許さない状況は継続しています。
米国のテレビ討論会を見て、メモもなく90分間の討論をするということの難しさを改めて感じました。この機会を生かして支持を広げることもできますし、討論に失敗して選挙で失速するリスクもあるわけです。今回の討論自体は、一方の候補の事実に反する発言の多さと、もう一方の候補の覇気のなさで、決して理想的な内容ではありませんでした。一方で、投票者が候補を討論会という形式で見定める機会を持つというのは羨ましく感じます。現在、東京都知事選挙が行われています。しかし、候補者間の討論会はネット討論会が一度実施されただけで、多くの視聴者に機会のある地上波テレビでは開催されていません。また、地上波テレビの報道番組などでも都知事選挙の扱いは小さく、投票日前の最後の日曜日でも、地上波テレビではほとんど扱われませんでした。結果として、今回の都知事選挙は、新聞や地上波テレビなどの媒体はあまり参考にならずに、主にネット系の報道コンテンツに頼って判断する機会となったようです。
AIにより躍進するNVIDIAとその株価
米国発のニュースでもうひとつ目についたのは、米国半導体メーカー「NVIDIA(エヌビディア)」が時価総額で世界の首位に立ったことと、その後に株価が激しく上下していることです。しばらく前までは、GAFAMを抜いてトップに出る企業は推測が出来ませんでした。実際に昨年末までは、アップルとマイクロソフトの2社がトップを争っていましたが、NVIDIAが2兆億ドルも時価総額を高め、3兆億ドルを超える企業におけるトップ争いに参加したのでした。現在の円安を勘案すると、500兆円の水準となり、各社がトヨタ自動車の10倍の時価総額に相当することになります。ここでは、NVIDIAの躍進の背景に触れてみます。
NVIDIAは、「GPU」と呼ばれる画像処理専用の半導体チップを搭載した「グラフィックボード」のメーカーとして有名でした。ゲームや動画の編集では、高速の画像処理が必要なので使用されますが、一般的なビジネスアプリケーションやウェブ検索などでは、特に必要とはされないので、ある意味で地味なメーカーでした。ところが、AI(人工知能)の進展とともに状況は一変しました。最近のAIは、類似する計算を同時に多数実行することが可能な環境が必要になります。これは脳の神経回路の動きをモデル化したものです。この作業が実は画像処理の計算と非常によく似ていたのです。NVIDIAのGPUは、第3次AIブームの発端となった深層学習(ディープラーニング)で活用され、この分野のスタンダードになりました。そして、現在もっとも動向が注目されている生成AIにおいても、ハードウェアは同社の「一人勝ち」の状況です。
また、この状況を支える要素として、NVIDIAが2006年に発表した開発環境の「CUDA」があります。専用のコンパイラやライブラリ(APIコール等)が提供され、NVIDIA製のハードウェアの性能を最大限に発揮できるように設計されています。一方で、このことはユーザがNVIDIAを選択せざるを得ないという、ベンダーロックインにつながっています。いずれにしろ、CUDAにより、開発のエコシステム(生態系)が出来あがっており、研究者や開発者はこのエコシステムから離れる理由もなく、当面はNVIDIAの「独走」は継続しそうです。株価はこのような状況と、四半期毎の業績発表を背景に大きく上昇しました。直近では、AIシステムの現実世界での進展のスピードと株価上昇のスピードのバランスに疑問が呈されることもあり、多少アップダウンする状況となっているようです。
これからの世界の方向を左右するAI
米国の政治そして企業の話題を取り上げましたが、これらの話題は決して米国国内だけに影響がとどまるものではなく、グローバルに影響のあることです。日本は経済、そして安全保障面でも米国政府とのつながりが強く、大統領選挙の結果は今後の4年間の両国の関係に明らかな影響があります。また、日本でも現在政府の支援を背景に活発なAIインフラストラクチュアへの投資が行われていますが、どのプロジェクトにおいてもNVIDIAの製品が中核を占めています。日本への「GPU」の割り当てが少ないと、プロジェクトが遅延するリスクになります。そのようなことを背景に、昨年の12月には岸田首相とNVIDIAのCEOが会談をして、供給増を要請したことが記事になりました。
当社も米国の事業部では、大規模なAIインフラストラクチュアの構築を支援しています。1つのAIインフラストラクチュアのクラスター構成システムに20,000以上のNVIDIAのGPUが搭載されているような構成です。大規模なクラウドベンダーや中規模のクラウドサービスプロバイダー、政府系機関、大学や研究機関において数々のプロジェクトを経験しています。NVIDIAの“Elite Partner”として、密接な関係性を維持しながらエンドユーザへの製品やサービスの提供を実施しています。近い将来、当社でもこれまでの無停止型の製品ソリューションに加えて、AIインフラストラクチュアへの取り組みを強化していく時がくると想定しています。