ホーム エッジ コンピューティング ロボティクスは何を実現する?―関連業界の今後と市場動向

世界シェアの半分以上を日本企業が占めているロボット産業。いまや日本は「ロボット大国」と呼ばれています。ロボットに関する研究開発は日進月歩で進んでいます。こうしたロボティクスの関連業界は今どのような状況に置かれているのでしょうか。ロボティクスが一段と注目を集めている理由、これから活用が期待される分野、ロボティクス関連業界の市場動向などをご紹介します。

ロボティクスが注目度急上昇!その理由とは

ロボティクスは、制御工学を中心としたセンサーや機械機構などを総合したロボット工学からスタートした研究分野です。しかし、現在ではロボットの高度化や活用される幅の広がりを受け、産業面以外での応用も視野に入れたロボットに関連する科学研究全般を、ロボティクスと呼ぶようになっています。

このように、ロボティクスという概念が示す範囲が拡大し、世間からの注目度が急上昇し、関連業界が成長している背景には、3つの理由があります。

ロボット需要が急速に拡大

ロボティクスの注目度が高まっている理由の1つ目として、労働者不足の問題があります。建設業界や運送業界は、深刻な人手不足からロボットの活用が期待されています。

また、もう1つ、ロボットの活用が期待される分野があります。それが介護の分野です。高齢化社会と介護職の人手不足が重なり、今後ますます介護分野でのロボット需要は加速していくと予測されます。

ロボットの供給体制の変化

2つ目の理由は、ロボットそのものや関連部品などの供給体制が変化を遂げていることです。

ロボティクスの開発が進み、実用性が向上すると同時に、ロボットの普及は進んできました。これにより、品質が向上しているにもかかわらず、部品・ソフトウェアなどの供給価格が以前より低下し、さらに安定して供給されるようになったのです。こうした、ロボティクス業界の発展により実用的な価格帯のロボットが登場し始め、量産化も現実のものになってきています。

ロボット活用を後押しする技術進歩

そして、3つ目の理由が、ロボットの活用を支える技術が広がっていることと、それらの技術が進歩していることです。

IoTやAIの進歩により、社会構造は変化し続けています。これらはもともとロボティクスとは全く別の分野として研究が進められてきました。しかし、それぞれが進化したことで、ロボティクスと結びつくようになってきたのです。また、ここにエッジコンピューティングを組み合わせることで、ロボットの反応速度はさらに向上しています。反応の遅延が小さくなることで、より制度の高い精密な動作も可能となり、さまざまな活用の可能性が広がっています。

ロボティクスとエッジコンピューティングの出会いがもたらした効果は、それだけではありません。ロボットの性能が向上し、より実用的で重要度の高い部分に使用されるようになりました。しかし、同時にハッキングによる悪用が懸念されるようにもなりました。こうした懸念要因に対して、エッジコンピューティングを組み合わせることで、インターネットの経由を減らすことが可能です。つまり、エッジコンピューティングを活用することで、ハッキングによる悪用でロボットを暴走させるようなテロの防止にもつながっています。

いままで、それぞれ独立して進化した技術がロボティクスと結びつき、ロボティクスが示す範囲は拡大しながらさらに進歩しています。このような背景もあり、ロボットがさらに活用される地盤が整ってきているといえるでしょう。

ロボティクスによって何ができる?

では、進化を続けるロボティクスによって、どのようなことができるようになっているのでしょうか。実はすでに、ロボットはさまざまな分野で活用されているのです。

製造業では溶接ロボットや組立ロボットが活躍しているのはよく知られています。これらは大きな腕一本のような形をしたものが主流でしたが、近年では両椀型で人間の上半身のような形状のものも登場しています。

医療の分野で活躍しているのは、手術支援ロボットや病院内搬送ロボットです。また、パワーアシストロボットや移乗介助ロボットなどの介護の分野で使われているものも知られています。

農業分野では無人トラクターや田植機、除草ロボットがすでに導入されており、さらには災害時の状況撮影や救命捜索に役立っているドローンもロボットの一種といえるでしょう。今後はさまざまな分野において作業支援型ロボットの供給が進み、各分野の裾野に普及していくと思われます。

ロボティクスの進化を後押しすべく、政府も日本再興戦略の一環として「ロボットによる新たな産業革命」を盛り込んでいます。「ロボット新戦略」を指針として、ロボットを活用した社会の充実を目指す方針です。

この「ロボット新戦略」のなかで、ロボット活用の重点とされているのは次の5分野です。

  • ものづくり

ものづくりの分野では、大企業だけでなく中堅・中小企業における労働集約的な作業へのロボット活用が必要とされています。また、食品・化粧品・医薬品といった高い水準の衛生環境が求められるものに対しても、ロボットの活用が効果的としています。さらに、これまではロボット化が困難とされていた段取り作業や準備工程についても、ロボット活用により人との新たな関係性やロボットによる匠の技の実現も模索していく方針です。

  • サービス

サービス業においては、卸・小売業、宿泊・飲食業などでの単純作業をロボットに任せることで、業界の人手不足を解消しようという狙いです。また、ロボット活用に関わる新たなサービスの創出もテーマとしています。ロボットそのものの価値から教育サービスやエンターテインメントを生み出すため、技術開発や環境整備を進めていくとしています。

  • 介護・医療

介護の現場は人手不足が深刻です。そこで、ロボット介護機器を活用し介護従事者の負担を減らし、やりがいと充実したサービス提供を両立できる現場環境の実現を目標としています。「介護は人の手によって提供されるべき」といった基本概念を維持しながらロボットによる支援で介護従事者の負担を減らそうという取り組みです。医療分野においては手術支援ロボットや医療機器によって、患者の負担を軽減することを目的と定めています。

  • 農業

GPS自動走行システムを活用した作業の自動化、人手に頼っている重労働の機械化と自動化、ロボットと高度センシング技術による省力化と高品質化などが重点的な推進目標とされています。具体的な内容として、自動走行トラクターやアシストスーツ、除草ロボット、センシング技術を用いた精密栽培などが盛り込まれています。

  • インフラ・災害対策・建設

ロボットによる効率化・高度化されたインフラの維持管理、災害調査ロボットによる迅速な被災状況把握などが重点とされています。また、建設分野においては人手不足を解消に向け、建設ロボット技術を導入し、省力化・自動化を実現し、人身事故のリスクも減少させることを狙いとしています。

政府の「ロボット新戦略」には、こういった内容が盛り込まれています。このようなロボット活用の実現に向けた後押しを受け、ロボティクス関連業界の発展が加速しているのです。

ロボティクス市場はどうなっていくのか

このように、日本では政府によるロボット新戦略が推し進められていますが、そういったロボットに関する政策を打ち出しているのは日本だけではありません。アメリカの「国家ロボットイニシアティブ(NRI)」、ドイツの「インダストリー4.0」、中国の「中国製造2025」などには、ロボット政策が盛り込まれています。

このように、企業単位の取り組みだけではなく国の政策として取り組まれ、世界全体としてロボティクスの発展への期待が高まっています。こういったロボティクス関連業界の市場は、今後どうなっていくのでしょうか。

ロボティクスの市場動向

富士経済では、業務・サービスロボット関連の世界市場を調査し、2018年に発表しました。これによると、業務・サービスロボット、ソフトウェアロボット、ロボット関連サービスの世界市場は、需要の増加によって市場の大幅な拡大を予測しています。2017年には1兆8,092億円の規模だった業界は、2025年には8.3倍の14兆9,553億円にまで膨らむとの予測です。特に物流・搬送用や家庭用の業務・サービスロボットが大きく伸びると見ています。

産業用ロボットの市場予想については、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の発表した平成22年ロボット産業将来市場調査が参照できます。製造・ロボテク・農林水産・サービスなどを合わせた産業用ロボット全体の国内市場について、こちらでも市場拡大が予想されています。2015年に1.6兆円、2020年に2.9兆円、2025年に5.3兆円、2035年には9.7兆円と、産業用ロボットはより注目と需要が高まっていくとしています。

ロボティクス関連業界のこれから

このように、ロボティクスはその言葉に含む範囲を広げながら、市場も急速に拡大しています。これまで、ロボットに関連する事業を行う企業は、まとめてロボティクス関連業界と呼ばれてきました。しかし今では、かつては含まれなかったIoTやAIの開発企業、さらにエッジコンピューティングの分野も含まれるようになってきているのです。ロボティクスの発展とロボットに求められる機能、実現できる技術がさらに進化することで、今後この業界はさらに拡大していくと思われます。

急加速するロボティクス関連業界の発展とロボットの進化

ロボティクス関連業界が急速に拡大している理由と、今後の市場動向について解説しました。今後さらにロボティクス関連業界の市場規模は拡大し、それにより実現するロボット自体も進化していくと考えられます。あらゆる分野でロボットが活用され、ロボティクス関連業界が世界にとって中心的な産業になる日もくるかもしれません。

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