製造業の収益モデルは、大きな変革の時を迎えています。これまでの「モノを売る」という考え方から、「モノによってできるコトを提供する」という新しい形、サービタイゼーションへと転換している企業が増えているのです。サービタイゼーションはどのような背景のなかで生まれ、どういった進化を遂げ、製造業をどう変えようとしているのでしょうか。
モノの提供からコトの提供へ―サービタイゼーション
製造業のあり方を変化させるとも言われるサービタイゼーションとはどのようなものでしょうか。サービタイゼーションという考え方が生まれた背景や特徴、それによって生まれる変化を見てみましょう。
新たなビジネスモデルへの転換が求められる
従来、モノづくり企業が収益を上げるための目標は「製品を製造して販売」することでした。しかし、製品の性能や価格の競争は日々激化し、近年では非常に短いリードタイムで製品を市場に提供する必要性に追われ続けています。
こういった環境下では、ひとつの商品について改良を重ね性能を向上させた後継機へとつなげていくような、緩やかな世代交代のプロセスは適していません。製品に対する顧客からのフィードバックによってより良い製品開発へとつなげる前に、まったく異なる性能を持つ次世代機へ移行しなければならないためです。その結果、メーカー側と顧客側で良い製品を共有し育てていくような開発手法は困難な時代となっています。
さらに、モノづくりの現場では、機器や設備など物理面でのFAは当然とされるなかで、デジタル面での変革も必要とされています。デジタルトランスフォーメーションやスマートマニュファクチャリングといった新たな構造への転換も急がなければならない課題です。
このような環境のなかで、次第に熱い視線を注がれるようになっているビジネスモデルがあります。それがサービタイゼーションです。 作った製品を売ることが目的ではなく、その製品を使って得られる体験・サービスを売るという考え方の新たなビジネスの形です。モノづくりからコトづくりへ、製造業のあり方が変化の時を迎えようとしています。
サービタイゼーションが変える製造業
では、サービタイゼーションによって製造業が提供するモノ・コトは何が変わっていくのでしょうか。予測される代表的な変化として、次の3つがあります。
- 製品利用料のフラット化
サービタイゼーションでは、顧客の観点だと「モノを所有する」から「モノを使ったサービスを利用する」へと変わります。これは、さまざまな分野で主流となっているサブスクリプションモデルとも結びつきやすい特徴です。
イニシャルコストについて費用対効果の算出が難しいようなものでも、利用料という形でコストがフラット化されることで算出が容易になります。これにより導入の敷居が低くなり、新規顧客開拓にもつながります。 - 企業の顧客の関係を長期化
サービタイゼーションは、製品を売って対価を得るのではなく、製品を使って利用できるサービスの利用料を払ってもらうという考え方になります。これは、製品を売って終わりではなく、サービスを提供し続けることを意味します。
これにより、サービタイゼーションを前提とした顧客との関係は必然的に長期的なものとなります。製品を改良して後継機を開発していく手法から、サービスの改善を重ねて顧客満足度を高めていく手法へとシフトするのもサービタイゼーションの特徴です。 - サービスによる差別化
製品の開発競争において、現代の技術で可能な範囲で顧客の求める機能を追求した結果、性能は飽和状態になり各社の製品に差を出すのが難しくなっています。しかし、サービタイゼーションでは提供するのはサービスであり、技術の壁という制約がないため差別化が可能です。サービスによる差別化は、事業としての大きな成長の可能性を持っています。特に注目されるICTソリューションを組み合わせたサービスは、今後製造業のサービタイゼーションにおいて差別化を図る鍵になると予想されます。
製造業に変革をもたらしたIoTとAI
サービタイゼーションが広がり始めたきっかけのひとつと言われるのが、社会全体に大きな変化をもたらしたIoTやAIの実用化と普及です。
IoTやAIは、製造業においてスマートファクトリーやスマートマニュファクチャリングといった考え方、モノづくりの新しい形へと進化していきました。これは、1台の革新的な装置よりも、全体的なシステムが注目され価値が高まっていったことも表しています。こういった新しい形のなかで、サービタイゼーションの需要が生まれるようになりました。装置メーカーは装置を販売・納入して終わりではなく、その装置がさらに何を生み出すか考え提供するようにシフトしてきたのです。
さらに、装置そのものより、装置が生み出す情報の価値が高まっていったのも影響しています。これは、IIoT(Industrial IoT)が爆発的に普及したことからも分かります。これまでは制御のI/O信号や稼働率の算出ソースとして扱われていた機器の発する情報が、システム全体を改善できるかもしれない鍵としてより重要視されるように変化しました。
そこで、この情報の価値がサービタイゼーションと結びつきます。装置のスマート化によって価値の高い情報を効率的に収集し、そこから次の付加価値を生み出していくサービスを提供することが可能になりました。
顧客の求めるものに応えるための進化―エッジコンピューティング
センシング技術の向上により、さらに多くの情報が得られるようになっている今、情報の使い方にも新しい形が求められるようになっています。その新しい形とは、AIを活用した次世代の自動化です。AIによる自動化のメリットを最大化するためには、これまでに比べてより高い精度や速度が求められます。
その課題に対する糸口として注目される技術が、エッジコンピューティングです。エッジコンピューティングは、処理を高速化させ情報にリアルタイム性をプラスすることで、スマート化されたモノづくりを進化させる要素技術として注目されています。では、モノづくりの現場に対し、コトづくりへのシフトを促すエッジコンピューティングの使い方とはどのようなものでしょうか。
機械装置向けのエッジコンピューティングに求められる要件
製造業でこれまで活用されてきた制御機器や機械装置において、重要視されるのは安全性と生産性です。安全であることは前提としたうえで、生産効率を落とさないことが最重要であり、安定生産のためにダウンタイムの発生は最も排除したい要素です。
また、製造現場はその製造工程や加工物の特性により、ときに過酷な環境の場合もあるため、耐久性・耐熱性・防塵性といった環境適合性能も欠かせません。導入が容易で、シンプルな操作であること、ハードウェア故障の際の復旧が迅速であることも重要です。
従来の製造現場で使われていたPLC主体の制御では、工場内で完結する閉じたネットワーク環境が当然でした。しかし、IoTのメリットを有効活用するためには外部との接続も考慮しなければなりません。このとき、安全で安定した稼働のために、セキュリティと脆弱性の対策は不可欠です。同時に、負荷の状況に応じて分散機能が自動的に実行され、障害分析とそれを元にした障害予測も自動で行われることが理想的です。
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エッジコンピューティングの導入によりコトづくりの実現へ
これらの要件を満たしたエッジコンピューティングプラットフォームを組み込むことで、新たな価値をプラスしたサービス提供が可能になります。
例えば、次のような顧客にとってのメリットや、サービスの提供といった可能性が広がります。
- 保守工数の負荷軽減
オフィス環境での使用とは異なり、工場での使用を想定したエッジコンピューティングプラットフォームは広い温度域に耐えるよう設計されています。また、非常に迅速な回復力を持つことも大きな特徴です。顧客に対し、これを組み込むことで従来の制御システムを強化しながら無限に広がるIoT応用の可能性を提案できます。 - リモートによる保守サービスを収益の核にするようなビジネスモデルの創出
製造設備に求められる重要な要件として、エラー発生時にダウンタイムが最小限になることがあります。リモートで保守サービスを行うことで、この最重要なコトをサービスとして提供するビジネスモデルの提案が可能です。 - デジタルトランスフォーメーションの変化点になる
これまでのPLC主体の制御システムは、デジタルトランスフォーメーションの一歩手前の状態を維持してきたと言えます。デジタル化の入り口には立っているものの、変革にまでは至らない段階でした。
エッジコンピューティングプラットフォームの導入は、デジタルトランスフォーメーションの一歩目となることでさらに可能性を広げます。デジタル化の変革の一歩目を踏み出し、IoTとAI活用の可能性を広げる変化点となることで次のイノベーションへと繋がっていきます。
エッジコンピューティングを使って既存の機械装置のサービタイゼーションを実現
このように、製造業に最適化されたエッジコンピューティングプラットフォームを導入することで、既存の機械装置のスマート化とサービタイゼーションの実現が可能になります。
これまでのような機械装置そのものを販売するのではなく、機械装置を使って何ができるのかといったサービスの提供に主眼を置いた顧客との関係が構築されます。さらに情報の価値が高まっていく時代に、情報の使い方を一歩先へと進めるエッジコンピューティングを組み込むことで、新たなビジネスモデルも生み出されていきます。
これからのスマートファクトリー、スマートマニュファクチャリングにおいて、サービタイゼーションの重要度は高くなっていくと考えられます。サービタイゼーションを実現するエッジコンピューティングプラットフォームの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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