物流業界の取り扱い量は、新型コロナ感染拡大により一旦は下降したものの巣ごもり消費の影響もあり、2021年からは増加に転じています。そこで重要になるのがスムーズな物流を可能にする倉庫業務です。しかし、倉庫管理は入庫・出庫・在庫管理などさまざまな管理業務があるうえ、人手不足もあり効率的な管理が行えていない倉庫も少なくありません。今回は、物流業界を支える倉庫管理業務の課題と原因を確認したうえで、効率化を実現するためのポイントをお伝えします。倉庫での管理業務に課題を感じている担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
参考:物流17業種市場に関する調査を実施(2023年)|株式会社矢野経済研究所
物流業界を支える倉庫管理業務
コロナ禍における巣ごもり消費は、物流の取り扱い量を大幅に増加させています。経済産業省が2022年8月12日に発表した「電子商取引に関する市場調査」によると、物販系分野BtoC-EC市場規模は13兆2,865億円(2021年)です。2019年の同市場規模は10兆515億円だったので、わずか2年で3兆円以上も増加していることになります。
参考:電子商取引に関する市場調査|経済産業省
BtoCはBtoBに比べ扱う商品数が多くあるものの一件ごとの取り扱い量は少量になるため、商品管理もより困難です。それを支えているのが物流業界であり、倉庫管理業務と言えるでしょう。
倉庫管理業務の主な業務内容
増加を続ける物流量を支える倉庫管理業務では、主に次のような管理業務を行っています。
- 入庫管理
仕入先から入荷した商品について伝票と差異がないかを確認したうえで倉庫内に格納する業務 - 出荷管理
出荷指示に応じて倉庫から商品を出荷する業務 - 在庫管理
倉庫内にある商品の保管場所の管理や、帳簿と実際の在庫数があっているかどうかの管理。また、不良品があるかどうかの検査・管理業務
ひと口に倉庫管理業務といっても、その種類は上述したように多様なうえ、手間のかかる業務が多く、従来のような手作業が中心となると、従業員にかかる負担も少なくありません。次の章では、倉庫管理業務の課題とその原因について解説します。
倉庫管理業務の課題と原因
需要が増加している倉庫において、管理業務が抱える課題とその原因は次のとおりです。
人材不足
倉庫管理業務は常に人材不足が大きな課題となっています。2022年11月30日に株式会社帝国データバンクが発表した「人手不足に対する企業の動向調査」によると、「運輸・倉庫」での正社員の人手不足割合は63.8%(2022年10月)です。これは全業種のなかでも5番目の多さで、2020年10月が41.4%、2021年10月が50.3%なのでこの1年で約13%も上昇しています。需要が増加するなかでの人材不足は倉庫業務において早急な解決が求められる課題と言えるでしょう。
参考:人手不足に対する企業の動向調査|株式会社帝国データバンク
倉庫業務で人材不足が慢性化している原因としては、少子高齢化による労働力人口の減少が挙げられます。定年による退職者の増加は人材不足の大きな原因です。また、倉庫業の離職率の高さも人材不足を生み出す原因と言えます。厚生労働省が発表した「令和4年上半期雇用動向調査結果」によると、倉庫業が含まれている「運輸業・郵便業」の2022年上半期入職者数165万人に対し離職者数は196.3万人です。入職者よりも離職者が30万人以上多いという結果から、倉庫業務の人材不足はかなり深刻な課題と言えます。
参考:令和4年上半期雇用動向調査結果(産業別の入職と離職の状況)|厚生労働省
業務の属人化
定年退職や離職により、管理業務のノウハウを持った人材の減少が進んでいます。倉庫管理業務は入庫・出庫のタイミングや倉庫内設備の状況、商品の特徴把握など総合的な面での管理が求められますが、教育の機会も少なくそのまま担当者がいなくなるケースもあります。人材不足が業務の属人化を生み、担当者がいなければ最悪の場合は業務が止まってしまうといった形で、事業に大きな影響が出てしまいます。
倉庫管理業務の課題を解決するポイント
少子高齢化が今後さらに進んでいくことは避けられず、人材不足の課題を新たな雇用で賄うのは非常に困難です。また、人材不足が解消されなければ、業務の属人化を解消させるのも難しいでしょう。そこで、これらの問題を同時に解決させられるとして注目を集めているのが、倉庫管理システムとエッジコンピューティングの導入です。ここでは、それぞれについて解説します。
倉庫管理システム(WMS)
倉庫管理システム(Warehouse Management System)とは、倉庫での管理業務を効率化させるためのシステムで、入出庫、在庫管理や棚卸などを一元で管理します。主な機能は次のとおりです。
- 入出庫管理
入庫時に入庫伝票との照合、仕分け管理。出庫時のピッキングや検品、出庫伝票との照合など - 在庫管理
在庫の配置、数、消費期限・製造年月日情報の管理など - 棚卸
棚卸作業表の作成、実棚数と帳簿数の差異一覧作成、棚卸報告書の作成など
これらの機能以外にも種類によって、製品管理のラベル作成、納品書や送り状、請求書、値札などの作成を行えるものもあります。
倉庫管理システムを導入すれば、手作業が減りヒューマンエラーの軽減が可能です。また、誰もが簡単に入出庫・在庫管理ができるようになり業務の属人化解消にもつながります。
エッジコンピューティング
エッジコンピューティングとは、コンピュータネットワークの周縁でデータ処理を行う技術です。スマートフォンやパソコンのほか、監視カメラやセンサーなどのIoT端末もしくはサーバーでデータ処理や分析を行う分散型アーキテクチャを指します。
近年の倉庫管理システムにはクラウドでデータの管理を行っているものが多くあります。しかし、クラウドの場合、一旦データをネットワーク経由で送信して管理を行うため、若干のタイムラグが生じます。また、倉庫管理業務において入出庫が頻繁に行われるようになると、都度クラウドにデータを送る際、ネットワークのトラフィックに負担がかかります。
エッジコンピューティングでは、データが発生する現場に近い場所にあるデバイスでデータ処理を行うため、リアルタイム性が高く、頻繁な入出庫が行われてもタイムラグの生じるリスクが軽減されます。また、すべてのデータをクラウドに送る必要がなくなるため、ネットワークのトラフィックにかかる負担も軽減されます。
エッジコンピューティングについて詳しくはこちらをご覧ください。
製造業でエッジコンピューティングを活用するメリット・デメリットと必要な要件を解説 | Stratus Blog
倉庫管理業務におけるエッジコンピューティングの活用例
実際に倉庫管理業務でエッジコンピューティングを活用している事例を紹介します。
エッジコンピューティングの活用で物流オペレーションの自動化サポートを実現
人手不足で作業員にかかる負担軽減を検討していた企業では、無人フォークリフトや無人搬送車の導入により、倉庫内でのピッキングや入出庫・入出荷作業の自動化を進めていました。そこでそれらの機器を管理する目的でエッジコンピューティングを導入。自動化の実証実験において、機器やシステムと連携させ、データの取得や主が維持の復旧対応に大きく貢献しました。
自動倉庫の画像判定システムにエッジコンピューティングを活用
商品の卸売事業を行う企業では、全国に拠点を持つ物流センターの自動倉庫システム・センターシステムにエッジコンピューティングを活用しています。具体的には、AI画像判定システムを構築し、自動倉庫の現場における画像のロジック判定や異常発生時のアラート送付などを可能にし、自動倉庫の効率化を実現しました。
倉庫管理業務の課題解決にはシステムの活用がポイント
巣ごもり消費の影響もあり、倉庫管理業務の需要は大きく増加しています。しかし、作業員の高齢化や離職率の高さから、すべての需要に応えきれていないのが現状です。今後、急激に人材が増加する可能性がない現状において、倉庫管理業務の課題を解決させるには、システムの活用が欠かせないと言えるでしょう。
倉庫管理業務でのシステムと言えば、倉庫管理システムが真っ先に思い浮かぶかもしれません。しかし、自動化や効率化を進めていくには、さらなるシステムの導入も視野に入れる必要があります。そこでおすすめなのがエッジコンピューティングの導入です。
いまや当たり前となりつつあるクラウド活用でネットワーク全体にかかる負荷の軽減、リアルタイムでのデータ処理など倉庫管理システム単独では解決が難しい課題の解消にも大きく貢献します。倉庫管理業務での負担軽減策にお悩みの際は、エッジコンピューティングの導入も検討されてみてはいかがでしょう。