ホーム エッジ コンピューティング ロジスティクスとは―具体的な意味や目的、課題と解決策を解説

商品がつくられ、顧客のもとへと届けられるまでの「ものの流れ」は、多くの企業にとって課題となる重要な仕組みです。このものの流れと深くかかわりがある考え方に、ロジスティクスがあります。ロジスティクスとは何を意味し、何を目的として実行されるのでしょうか。物流との意味の違い、ロジスティクスの取り組みで得られる効果、現状の課題と進められている解決策などを紹介します。

ロジスティクスとは

現代の複雑化した物流網を支え、さらに発展させていくために重要となるのがロジスティクスです。ロジスティクスの基本的な意味から見ていきましょう。

ロジスティクスの意味

ロジスティクスとは、ものづくりの際に原料や資材の調達から生産、そのあとの輸送や販売までの流れを総合的に最適化することをいいます。
例えば、生産体制が整っていて商品を効率よく生産できたとしても、輸送体制に欠点があれば、求める人の手に商品が行き渡りにくくなります。または、輸送体制が万全であっても、生産効率が悪いと商品の生産に遅れが生じ、同様に求める人の手に行き渡りません。このように、バランスがとれていなければ、総合的なものの動きは停滞します。
こういったものの流れに関するあらゆる機能のバランスを取りながら、全体の高度化を図るのがロジスティクスです。

ロジスティクスと物流

物流を英語でロジスティクス(Logistics)と表現する場合もあり、物流とロジスティクスは同義の言葉として使われることもあります。これは、物流には広義と狭義の使われ方があることが原因といえます。
物流は、広義ではロジスティクスと同様の意味で使われますが、狭義では単にものの移動を意味します。一般的には狭義の意味で使われることが多く、その場合ロジスティクスの定義とは異なります。狭義の物流、つまりものの移動を指す場合は英語でPhysical Distributionと表現し、区別されています。
一般的に物流というと、運送、保管、包装、システム、流通加工、荷役を含む物品の流れを表します。ロジスティクスは物流だけでなく、調達や生産、販売までも含む体系的な考え方のことをいいます。

ロジスティクスの目的とメリット

ロジスティクスの目的をひと言で表すと、「需要と供給のバランスを整えること」となります。いい換えると、「求める人のところへ求めるものを適切に届けること」です。
当然のことのように思えるかもしれませんが、現代のものの流れは迅速かつ広範囲の対応が求められ、緻密な物流計画を必要とします。また、コストと輸送品質のバランスも重要です。
こういった複雑化した物流に対し、ロジスティクスによってその流れを整えることで、次のようなメリットがもたらされます。

需要に対する供給の最適化

ロジスティックスで需要と供給を適正化することにより、品切れや過剰生産を防ぎ、販売機会の損失や無駄な生産をなくせます。また、在庫の適正化ができ、在庫管理における無駄な労力の削減が可能になります。在庫を抱えることで需要変動への追従がしにくくなる状態も回避でき、需要への柔軟な対応ができるでしょう。

物流の効率化

需要に対して適正な生産を行うことで、生産工程や在庫管理、輸送に関しても効率化できます。需要が大きく生産が追いついていない場合や、需要に対して過剰生産となっている場合、どこかでものの流れに渋滞が起き、物流全体の非効率を招きます。ロジスティクスで需要と供給のバランスを適正化することで、商品が生産されて届けられるまでを含めた物流をスムーズに行うことが可能です。

コストの削減

ロジスティクスはコスト削減にも大きな効果があります。需要と供給のバランスがとれていないことで過剰生産となった場合、無駄なコストが発生する可能性があります。過剰生産を防ぐことで、製造ラインの稼働コスト、人件費、投入した原材料費などの、さまざまなコストの削減が可能です。また、余剰在庫も管理コストがかかるため、在庫の適正化もコスト削減につながります。反対に、供給量が不足している場合は、必要な売上を確保できずに、かかったコストを補えなくなることもあります。ロジスティクスによって需要と供給の適正化を図ることで、コストと利益の適正化にもつながるのです。

マーケティングの精度向上

ロジスティクスでは、データにもとづいた需要予測から供給量を適正化します。需要予測の精度が上がれば、それに合わせた販売活動ができるようになります。戦略的な営業活動がより効率的に行えるようになり、そこから得たデータからさらに次の需要予測が可能になります。このように、ロジスティクスはマーケティングや営業活動の精度向上にもつながります。

ロジスティクスがものの流れを効率化する仕組み

ここまでに挙げたようなロジスティクスの目的やそこから得られるメリットは、どのような仕組みによって達成されるのでしょうか。ロジスティクスがなぜ必要とされているのか、その理由から考えてみましょう。
ロジスティクスの重要性が高くなっている背景には、時代の変化や技術の進化ともにニーズが多様化していることが大きく関係します。かつては画一的な商品を大量生産し、つくった分だけ売れた時代もありましたが、現代は人によって求めるものが異なる時代です。そのため、少ロット多品種生産が現在の主流であり、つくって送るという一本道の物流では効率的な対応は不可能になっています。
そこで、顧客が必要とする商品を、必要なときに、必要な数だけ、必要な場所に届けることで需要者と供給者の双方に利益のある仕組みが求められているのです。
ロジスティクスが有効に機能し、メリットを最大化するためには、以下のような仕組みが重要です。

売れている商品の把握と需要予測

在庫数や販売数などのデータから商品の動きを可視化して、売れている商品を把握します。その情報をもとに、商品の需要を正確に予測する仕組みを確立することが重要です。正確な需要予測は、在庫管理や生産計画などの重要な決定を下す判断材料となり、生産性を向上させます。

適切な在庫管理

在庫を適正に維持することで、供給の最適化、物流の効率化とコスト削減につなげます。在庫のレベルを適正に保ち、必要とされる商品の販売に対応するために、製造における原材料や資材の調達計画および生産計画を最適化することが重要です。

生産工程の改善と自動化

ものの流れを効率化するためには、生産効率の向上と安定化も進めなければなりません。そのためには、技術的な改善や自動化を導入することが効果的です。自動化された機器やロボットを利用することで、生産ラインの稼働率を高め、生産性を向上させます。

生産と物流のプロセス見直し

生産と物流のプロセスを見直し、改善を行うことで、ものの流れが効率化されます。具体的には、製造工程や物流工程において作業分析を行い、無駄または非効率な作業を排除することで生産性向上を図ります。

物流システムの導入と効率的な運用体制

ロジスティクスが有効に機能するためには、各工程・各作業全体を通しての連携が重要になります。異なる場所で行われるプロセスを連携させるためには、データによる連携が不可欠です。調達、生産、輸送、販売を通してリアルタイムにデータを共有・活用することで、ものの流れを最適化します。
こういったデータにもとづくロジスティクスプロセスの最適化を可能にするのが、物流システムです。物流システムによってリアルタイムの情報が共有されることで、需要変動に対する供給調整、生産や輸送のトラブルなどに迅速な対応が可能になります。また、蓄積されたデータから需要予測の精度向上も期待できます。
ただし、物流システムによってリアルタイムの状況の可視化や変動する需要予測ができたとしても、それを有効に運用できる体制が整っていなければ効果は大きくなりません。データから得られた効果を最大化できる運用体制も整備していくことが重要です。

ロジスティクスの課題と解決策

ロジスティクスは近年、次のような課題を抱えています。

  • 物流コストの増加
  • 働き手の不足
  • 環境への配慮

燃料費の高騰や小口配送の増加により、物流コストは増加し、企業の利益を圧迫しています。また、少子化や労働力人口減少による物流業界の働き手不足は、業界の抱える大きな課題となっています。
環境への配慮にも課題があります。日本の物流はトラックによる輸送が6割を占めるといわれており、CO2排出量の問題からも目を背けることはできません。また、物流にかかわる包装材やマテリアルハンドリング資材にはプラスチックが多用されており、資源の持続性についても積極的に取り組んでいく必要があります。
これらの課題に対し、次のような取り組みが進められています。

物流センターの省人化とDX

労働力人口が減少するなか、働き手の確保はさらに難しくなっています。そこで、ロボットが人に代わって作業することで省人化が進んでいます。ロボットが人の作業を補助して一緒に働く協働ロボットも注目されています。協働ロボットは比較的小さなコストで導入でき、完全に人に代わるわけではないため現場の抵抗感も少なく、働き手不足の解消としては大きな効果があります。
また、物流センターのあり方にも変化が起きています。従来は「ものを集めて再分配する」という、ディストリビューションセンター(DC)のような物流センターが主流でした。近年は、さらに多くの機能を持つフルフィルメントセンター(FC)が増えています。FCは、在庫や輸配送の手配と情報管理だけでなく、受注・顧客データ管理、顧客対応まで引き受ける機能を持ちます。情報管理の重要度が高く、データ活用によってさらに物流を効率化できるだけでなく、需要変化の把握や需要予測から在庫管理や輸送ルート調整までの業務が可能です。
今後、さらなるロボットやデータの活用など、デジタル技術の活用が進んでいくと予想されます。

モーダルシフト

国内輸送の約6割はトラック輸送が担っています。CO2排出量の削減の観点から、エンジンで走るトラック輸送を別の方法に切り替えていくことも検討され、実際に取り組みが進められています。こうした、環境負荷の小さい輸送方法に転換することをモーダルシフトといいます。輸送力の高い鉄道や船舶による輸送に切り替えていくことで、CO2排出量を抑えるだけでなく、働き手不足への対策、燃料コスト削減などの効果も期待できます。
ロジスティクスに携わる物流企業は、SDGsへの取り組みとしてモーダルシフト推進を掲げている例も少なくありません。

サプライチェーンマネジメント(SCM)への移行

企業が1社のみでロジスティクスに取り組むには、物流網が複雑に発達した現代では限界があります。そこで注目されるのが、サプライチェーンマネジメント(SCM)です。SCMは、企業や組織の枠を超えて、製品やサービスを提供するためのサプライチェーン(供給網)を構築し、物流を最適化するための仕組みです。
SCMでは、原材料や資材の調達、生産、在庫管理、輸配送など、製品やサービス提供に関するすべてのプロセスを複数企業が共同で行います。それにより、物流効率化とコスト削減、物流品質の向上につなげます。企業間で供給体制を結びつけ、複数企業で合理化を図るSCMは、ロジスティクスのひとつといえます。これまでの企業間での競争にとらわれないこのような取り組みも、今後さらに重要度を増していくと考えられるでしょう。

SCMについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
SCM(サプライチェーンマネジメント)とは?メリットや課題、注目される背景を解説 | Stratus Blog

ロジスティクスの重要性はさらに高くなる

働き手の不足や物流コストの増加といった物流業界の抱える課題に対して、企業は効率化を図らなければさらにコストがふくらみ、利益の確保が困難になります。また、ニーズの多様化が進むなかで、物流に限らず調達から販売まで、俯瞰的な視点で全体の最適化に取り組んでいくことの重要性も高くなっています。こうしたものの流れ全体に対する体系的な取り組みがロジスティクスです。現状の物流を取り巻く課題は自然に解消されるものではないため、ロジスティクスの重要性はより高くなっていくと予想されます。

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