主に製造業を中心に導入が進むSCM(サプライチェーンマネジメント)。原材料の調達から製造、物流、販売を経て顧客の手元に届くまでの一連の流れを一括管理することで、適正な在庫管理やリードタイムの短縮、利益向上を目指すものです。
ただ、SCMはさまざまなメリットを得られるものの、導入や運用にはいくつかの課題も生じます。そこでSCMの運用の課題を解決し成果を上げるために欠かせないのが、SCMシステムです。
今回は、特に製造業におけるSCMの課題を見つつ、その解決策となるSCMシステムの概要から、導入のメリットと適切に導入を進めるためのポイントをお伝えします。サプライチェーンマネジメントの導入を検討している企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
製造業におけるSCM(サプライチェーンマネジメント)の課題
製造業におけるSCMの課題として、主に次の点が挙げられます。
サプライヤーの多様化による管理の複雑化
例えば、家電製品にAIを組み込むと、これまでは必要なかった高性能な半導体やセンサーなどの部品、音声認識や画像処理技術が必要になっています。また、効率化やコスト削減を目的として、製品の保管・管理に自社倉庫ではなく物流不動産を活用するケースも少なくありません。このようにサプライヤーの多様化が進んでいるため、サプライチェーンの管理は以前よりも複雑化しています。
サプライチェーンのグローバル化
製造部門を海外に移す、市場を海外に求めるなど、ビジネスのグローバル化が進めば、サプライチェーンのグローバル化も欠かせません。グローバル化したサプライヤーを一括して管理するには、それぞれの国の文化や慣習にも合わせる必要があり、国内だけのサプライチェーンに比べ非常に困難です。
サプライチェーンマネジメントについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
SCM(サプライチェーンマネジメント)とは?メリット・デメリットや注目される背景を解説 | Stratus Blog
SCM(サプライチェーンマネジメント)の課題を解決するSCMシステムとは?
製造業におけるサプライチェーンマネジメントの課題を解決するにはさまざまな施策が考えられますが、そのなかでも、まず進めるべきはSCMシステムの導入です。
SCMシステムとは?
SCMシステムとは、サプライチェーンの管理を最適化かつ効率化するためのシステムで、各サプライヤーが持つ情報やデータを可視化させ、一元で管理・分析します。また、分析したデータを各サプライヤー間で連携・共有し、適切かつ迅速な業務の遂行を可能にします。
SCMシステムを構成する要素
種類にもよりますが、SCMシステムを構成する主な要素としては、次のようなものが挙げられます。
- 業務統合
サプライチェーンマネジメントを実施するには、まず自社内の業務統合が必要です。原材料調達部門、製造部門、販売部門、会計部門などの基幹業務をERP(Enterprise Resources Planning:企業資源計画)により一元管理します。 - 計画系
製品の需要予測から生産・在庫・物流・資材・納期計画、受給調整などをSCP(Supply Chain Planning)により管理します。 - 実行系
完成した製品の保管、物流業務において効率化や品質管理を行うため、WMS(Warehouse Management System)やTMS(Transport Management System)などで管理します。
SCMシステム導入で得られるメリット
人の手だけで行うには困難なSCMですが、SCMシステムを導入することでさまざまなメリットが生まれ、スムーズに進められるようになります。具体的なメリットは次のとおりです。
サプライチェーン全体を効率的に管理できる
各サプライヤーを一元で管理できるようになり、全体の管理が効率化されます。手作業でSCMを行う場合、各サプライヤーと連携を取りつつ、都度情報の収集や集約作業を行うことが欠かせません。しかし、SCMシステムを活用すれば、設定により自動で情報の収集・集約・分析などが行えるため、大幅な効率化が実現します。
適正な在庫調整が可能になる
各サプライヤーの持つ情報が可視化されるうえ、過去の実績や直近の販売状況などの分析が迅速に行えるようになるため、適正な在庫調整が可能です。また、適正な在庫調整が可能になれば、急激な需要変動にも対応しやすくなります。
リアルタイムでの販売状況が確認できる
製品のリアルタイムでの販売状況が確認できるようになり、どこの在庫が減少しているか、過剰になっているかがすぐに把握可能です。その結果、物流プロセスが最適化され、物流にかかるコストや倉庫管理にかかるコストの削減につながります。
SCMシステム導入のポイント
ひと口にSCMシステムといっても、その種類は多様です。そのため、自社に合ったシステムを選択しなければ、思ったような成果は期待できません。ここでは、SCMシステムを導入する際のポイントを解説します。
現状のサプライチェーンを適切に把握する
SCMシステムの種類によって、持っている機能やできることの範囲はさまざまです。そのため、自社にとってどのような機能が必要で、どこまでのサプライヤーを管理しなくてはならないかを明確にする必要があります。そのために必要なのは、現時点でのサプライチェーンの詳細を正しく把握することです。
既存システムとの連携を確認する
例えば、ERP(Enterprise Resources Planning:企業資源計画)をすでに導入している場合、ERPの機能を持つSCMシステムは必要ありません。ただし、既存のERPと導入するSCMシステムが連携できなければ意味がないため、既存システムと連携が可能かどうかも確認は必須です。
サポート体制が充実しているかどうかを確認する
サポートはメールのみか、電話でも対応してくれるのか、研修体制は整備されているかなど、どこまでサポートしてくれるかの確認も欠かせません。サポートの質や量により、導入後の運用体制も大きく変わるため、サポートの充実度については確認を怠らないようにしましょう。
SCM(サプライチェーンマネジメント)で成果を上げるには適切なSCMシステムの選択が重要
原材料の調達から製造、物流、販売を通して顧客の手に渡るまでを、一括で管理するサプライチェーンマネジメント。実行することで、業務効率化や適正な在庫調整、リードタイムの短縮などが実現し、顧客に高品質の製品提供が可能になります。
ただ、SCMを実行するには、業務プロセスの見直しや改善、各サプライヤーとの連携など、越えなくてはならないハードルも少なくありません。これらのハードルを越えるには、顧客への価値提供、利益の最大化といった目標を自社内で部門横断的に、あるいはサプライヤー間で共有することが、まずは重要です。そのうえで、SCMシステムの活用により、自社の各部門・拠点、加えて各サプライヤーがそれぞれ持っている情報やデータを可視化させ、一元で管理・分析を行える環境の構築が必要になってきます。サプライチェーンが最適化されていけば、将来的にはマスカスタマイゼーションのような全く新しい価値提案が可能になることも考えられるでしょう。
本記事で取り上げたSCMシステムの導入により、適正な在庫調整や需要変動への対応もしやすくなるため、現場の担当者にかかる負担は大幅に軽減されるでしょう。ただし、そのためにもさまざまなSCMシステムから自社に最適なものを選択することが大切です。
SCMシステムの選択をする際は、自社に関わるサプライヤーの状況、既存システムとの連携などの確認が重要です。現時点でのサプライチェーンの詳細を正しく把握し、自社に最適なSCMシステムの導入を目指しましょう。