少子高齢化による人手不足や競争激化、熟練技術の継承の難しさなど、製造業を取り巻く環境は厳しさを増しています。そんななか、製造ラインでの機械化は進んではいるものの、生産管理はまだまだ人の勘や経験に頼っているという現場も多いのではないでしょうか？
そこで今回は、工場での生産管理に革命をもたらすと期待されるスマート工場（スマートファクトリー）についてお伝えします。スマート工場化が実現すれば、品質向上やコスト削減、生産性向上による納期短縮など多くのことが実現します。
この記事では、スマート工場の概要や取り組むメリット、成功させるポイントなどを解説します。工場で生産管理担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
スマート工場（スマートファクトリー）とは？
スマート工場とは、工場内で扱う機械設備や管理システムをネットワーク化し、AIやIoTといった先端IT技術を導入することにより、効率的かつ生産性の高い作業を行うことができる工場です。
スマート工場が生まれた背景としては、2011年にドイツ政府が提唱した「インダストリー4.0」が挙げられます。蒸気機関、電気、デジタルに次ぐ第四次産業革命として、世界に先駆け、いち早く製造業の改革に取り組むために導入したのが、スマート工場です。
スマート工場での生産管理とは？
従来の工場での生産管理とは、受注や現在の仕掛状況を見つつ、適正な材料の調達を行い、生産計画に沿って製造業務を管理するものでした。受注管理や材料の調達など、生産管理における多くの業務は経験に基づく勘が求められるため、どうしても属人化が生まれやすい業務です。
しかしスマート工場では、勘に頼ることなく製造工程で収集したさまざまなデータを分析し、自動で受注予測や生産計画の策定を行います。その結果、生産管理の属人化防止につながり、人手不足解消にも高い効果が期待できるでしょう。
生産管理について、詳しくはこちらの記事もご参照ください。
生産管理とは？業務の目的や内容、課題と対策を解説 | Stratus Blog
スマート工場に取り組むメリット
自社の工場をスマート化することで得られるメリットとしては、次の点が挙げられます。
不良品や在庫ロスの削減
勘による手作業で行ってきたこれまでの生産管理が自動化されることで、不良品や在庫ロスが減り、全体業務が効率化すると同時に利益向上にもつながります。
属人化防止
勘による生産管理は、熟練の技術者による業務の属人化という大きなデメリットを生み出していました。しかし、スマート工場への取り組みにより多くの業務が自動化されるため、業務の属人化防止が実現します。
生産性の高い業務への集中
多くの業務が自動化され手作業が減れば、空いた時間で従業員がより生産性の高い業務に集中できるようになり、結果として利益向上にもつながります。
不良原因の特定
製造装置やラインにセンサーを組み込むことで不良の発生原因を素早く特定でき、適切かつ迅速な改善が可能です。また、出荷後に不良品の発覚、故障の発生などが起きた場合でも、迅速な原因特定が実現。適切な顧客対応や顧客別の多様なニーズへの対応が可能になり、顧客満足度向上にもつながります。
機械設備の故障予測
製品を製造していく工程のなかで、ネットワーク化された機械設備のデータ収集を行い、的確な故障予測が立てられるようになります。その結果、早期の修繕、刷新ができるようになり、業務が止まってしまう期間を極力減らすことが可能です。
スマート工場を成功させるためのポイント
工場のスマート化を成功させるにはいくつかのポイントがあります。なかでも重要なポイントは次の点です。
スマート工場導入の目的明確化
なぜスマート工場を導入するのか、その目的を明確にする必要があります。目的が明確でないと投資対効果の算定もできず、何から手をつけるべきなのかも分かりません。コスト削減、技術の継承、人手不足解消、多様なニーズへの対応など、スマート化を進めるうえで何を重視するのか、その目的を明確にしましょう。
業務プロセスの可視化
スマート工場導入の目的を明確にするには、現状の業務プロセスを可視化させ、課題を明確にしなければなりません。例えば、定年退職で技術者がいなくなる、データ入力業務が手作業で時間がかかるうえミスも多いなど、具体的な課題を見つけ出します。
先端IT人材の確保
スマート化の成功は、AIやIoTの活用が欠かせません。そのため、AIやIoTを効果的に活用できる人材、そして収集したデータを適切に分析できる人材の確保が必須です。
情報の共有
スマート工場の成功は、現場で働く従業員の理解と協力が必須です。そのため、スマート化の目的や施策内容は従業員にも共有し、同じ方向を向いて進むことができるようにする必要があります。
生産管理におけるスマート工場の成功事例
日本ではまだまだ認知が進んでいないスマート工場ですが、すでに成果を上げている工場も増えつつあります。ここでは、2017年5月に経済産業省 中部経済産業局が発表した「スマートファクトリーロードマップ」から、スマート工場の導入成功事例を紹介します。
旭鉄工株式会社
主に自動車部品の製造を行っている旭鉄工株式会社では、受注増加により、設備増設のコストを抑えつつ生産性向上を実現させることが喫緊の課題となっていました。
設備増設をせずに生産性を向上させるには、各設備の稼働状況や生産時間管理の正確な把握が欠かせません。しかし、手作業で行うには手間がかかり過ぎるため、各設備の稼働状況や生産時間の管理を行うシステム導入を行いました。
システム導入後、設備の適切な稼働管理により、当初計画していた設備増設も不要となり、1億4千万円のコスト削減を実現。さらに、自社工場の成果が出たことで他社でも需要があると見込み、外販のための会社を新たに設立するといった新規事業創出にもつながりました。
株式会社半谷製作所
主に自動車部品の製造を行っている株式会社半谷製作所では、年々業務内容が変化していることから、将来に向けた人材育成と業務改革のスピード化を課題としていました。そこで業務のシステム化を進めつつ、10年後に主体的に業務を遂行できる人材育成を開始。社長の号令のもと、生産管理システムの活用を従業員が主体的に進めました。
毎⽉の会議で労働⽣産性の⽬標と実績を確認し、意⾒を出し合った結果、スピード経営を実現し、製造機械の適切な稼働による新規受注増加によって、過去4年で売上高約1.1倍増と人件費約5%削減に成功しました。
富士通株式会社／株式会社島根富士通
主にネットワーク製品の製造を行っている富士通株式会社および株式会社島根富士通の各工場では、製品の品質管理や業務効率向上の施策を継続的に行っていましたが、その多くが手作業であるため、自動化が大きな課題となっていました。
そこで、作業エリア内の製品の位置を把握するためのセンサーを設置し、製品が滞留しやすい場所、作業終了時間の予測を行い、データ連携と人と機械の協調生産を推進。品質向上を実現しただけでなく、生産リードタイムを従来の1/5まで短縮させました。
まとめ：生産管理現場の革新には工場のスマート化が必須
工場での生産管理を効率化し生産性を高めるには、これまでさまざまな障壁がありました。特に人手や勘に頼る部分が大きい受注予測や在庫管理のミスによるロスの発生や熟練工の高齢化などは、単純に機械化を進めるだけでは問題解決につながりません。
そこで大きな注目を集めるようになったのが、AIやIoTなどの先端IT技術、そして機械設備やシステムのネットワーク化によりさまざまなデータ収集を行う工場のスマート化です。これまでは得られなかった多くのデータを収集したり、AI分析によって熟練工のテクニックをマニュアル化したりすることが可能になり、効率的かつ生産性の高い業務が可能になります。
工場のスマート化によって生産管理が効率的に行えるようになれば、これまでは難しかった技術の継承はもちろん、顧客の多様なニーズにも対応ができ、顧客満足度向上につながります。生産管理現場に革新をもたらすスマート工場を実現するため、ぜひ取り組みを開始してみてはいかがでしょうか。
