ホーム リーダーシップ ペイメント研究会コラム(第1回) – 決済(ペイメント)革命が産業に与える影響

ペイメント研究会コラム(第1回) – 決済(ペイメント)革命が産業に与える影響

日本ストラタスではその事業の一環としてソリューション・サービス事業を展開しており、その中の柱のひとつとして決済(ペイメント)分野でのソリューション提供、システム開発・構築を行っています。中国に本社を持つ顶峰数码科技有限公司(Summitdata)は当事業におけるパートナーです。両社は日本・中国をまたぐ形で国際分業を行っています。

皆さんもご存じの通り、中国では近年アリペイ(Alipay、支付宝)、ウィーチャットペイ(WeChat Pay、微信支付)と呼ばれるモバイル決済サービスの普及と共にキャッシュレス化が急速な勢いで進行しています。

中国人民銀行等によると過去4年間に中国のモバイル決済の規模は22倍に拡大、2013年の決済件数は16億7400万件、決済金額は9兆6400億元(約164兆円)だったのが、2017年には375億5200万件、202兆9300億元(3,450兆円)に増加したと言われています。

上記金額は中国の2017年のGDP(82兆7211億元)をはるかに上回る数字となっていますが、実は企業間決済、企業や個人間の送金等も含まれています。お金(この場合は電子マネー)は何度も循環するので、それを足し合わせると最終消費者が買い物をする金額の総額(民間最終消費支出)を超え、さらにGDPよりはるかに大きな数字となる訳ですが、それにしても凄まじい増加傾向です。

日本では民間最終消費支出に対して電子決済の占める金額比率が論じられることが多く、日本銀行によると2016 年度では電子マネーにクレジットカード、デビットカードも加えたカード決済全体の決済金額は56.6 兆円、民間最終消費支出の約2割となっていて政府はこれを2020年度に4割まで増加させることを目標にしていますが、中国ではその比率は2015年時点で既に55~60%に達していたとするレポートもあります。

当ペイメント研究会では日本ストラタス・顶峰数码科技有限公司両社の中で日本、中国におけるペイメント分野の動向に詳しいメンバーを中心に、上記のような動向を踏まえ今何が起きているのか、これからどうなっていくのかをスタディしています。当コラムでは研究会で議論した内容の中で当メルマガの読書に興味をもっていただけそうなトピックを取り上げていく予定です。

最近様々なメディアが「スマホ、モバイル決済」、「キャッシュレス化」、「電子マネー」、「QRコード決済」といったキーワードでペイメント分野で現在起きている変化について情報を発信しています。それらの記事の多くはペイメントの仕組みを利用するユーザ(一般消費者および小売業、店舗)にとってそれがどういった意味を持つのか、何が変わり、便利になるのかという視点で書かれています。

ペイメントの仕組みに関して(提供者の立場ではなく)ユーザの立場で接する人の方がはるかに多いため当然のことと言えますが、本メルマガの読者の中には提供者側の立場で動向を注視されている方も多いと思います。そこでここではペイメント分野での変化が提供者側(広い意味でのペイメント産業)に与える影響について考えてみたいと思います。

判り易い直接的な影響の一例として、中国では上記で述べたモバイル決済の急激な発展の結果、近年ATMの新規設置台数が急減しています。2015年には25.16万台あったのが2016年には5.75万台、2017年には3.64万台となり、最大手「広電運通」2017年売上は前年比47.18%減少となりました。その一方でQRコードの装置メーカ(チップ、スキャナー等)の業績が急上昇しています。深圳市場に上場しているメーカ「新大陸」の2017年上半期の売上は25.2億元(約428億円)に達し、59.18%増、純利益は4.28億元、81.65%増となりました。

もちろんモバイル決済事業で大きなシェアを持つアリペイ、ウィーチャットペイの成長速度はもっと凄まじく、アリペイのサービス開始は2004年末ですが、それを運営するアント・フィナンシャルサービスの企業価値は2017年時点で600億ドル(約6兆6千億円)とも評価されています。日本で金融サービスを提供する企業の時価総額と比較すると1位の三菱UFJ銀行(時価総額約10兆円)には及ばないまでもそれを追うゆうちょ銀、三井住友FGの時価総額に匹敵する企業価値を持つまでわずか10数年で成長を遂げたことになります。

これだけ大きな変化があれば既存のプレーヤーへの影響が気になるところですが、中国ではそれまで現金決済が主流でクレジットカードの普及は進んでいませんでした。デビットカードとして広く使われている銀聯(Union Pay)も、中国銀聯の設立は2002年3月でアリペイのサービス開始とさほど変わりません。またVISA、MASTER、AmericanExpressといった国際ブランドは2016年6月の法改正まで中国でのカード清算業務への参入を厳しく制限されていました。

このようにペイメント分野は中国では比較的未開拓な市場であったために、新規市場を分け合う(奪い合う?)形で三大プレーヤー(銀聯、アリペイ、ウィーチャットペイ)が勢力を広げていった結果、新参プレーヤーの台頭によって既存プレーヤーが大打撃を受けるという事態にはなりませんでした。

中国で金融分野の市場開放が進み、国際ブランドが本格的な中国市場への参入のチャンスをうかがう一方、日本でも中国からの来日客を受け入れるため、銀聯、アリペイ、ウィーチャットペイへの対応が進んで来ています。ペイメントの分野でも着実に国際化の波が押し寄せている訳ですが、決済(ペイメント)革命とも呼べるような当該分野での近年の大きな変化と合せ、今後どのような影響が表れ、どのような変化がもたらされるのでしょうか。興味の尽きないところです。次回の当コラムではその辺りを少し掘り下げてみたいと思います。

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