ホーム エッジ コンピューティング Connected Industriesとは? 製造業に求められる新たな付加価値創出と社会課題解決のポイント

Connected Industriesとは? 製造業に求められる新たな付加価値創出と社会課題解決のポイント

2017年3月にドイツ情報通信見本市で提唱された「Connected Industries」。第四次産業革命による技術革新を踏まえ、官民一体となって新たな付加価値の創出とさまざまな社会問題の解決に向けた取り組みを進めていくものです。ただ、その実現にはいくつかの課題もあり、世界に後れることなくConnected Industriesを実現させるには、より積極的な取り組みが欠かせません。今回は、Connected Industriesの概要やメリット、課題の解消方法などについてお伝えします。

Connected Industriesとは?

Connected Industries(コネクテッド・インダストリーズ)とは、経済産業省が2017年3月、世界に向け、日本の産業が目指す姿を提唱したものです。主に製造業を対象としたもので、データを介し、機械や技術、人などとつながることで新たな付加価値の創出をすると共に社会課題の解決を目指す産業のあり方を示しています。

Connected Industriesの3つの柱

Connected Industriesを目指すうえで、次の3つの柱を設けられています。

  1. 人と機械・システムが対立するのではなく、協調する新しいデジタル社会の実現
    AIやロボティクスの急速な進化は、ともすれば人の仕事が奪われてしまうといった不安を持たれたり敵視されたりしがちです。しかし、AIやロボティクスは、人の力を引き出すもしくは助けるために活用し、社会問題の解決やデジタル社会の実現を目指します。
  2. 協力と協働を通じた課題解決
    企業同士や法人と個人、モノと人などがつながることによって付加価値の創出を行うのが、Connected Industriesのコンセプトです。そのため、さまざまな場面で協力や協働を行い、国際社会での競争力を強化します。また、同時に日本だけではなく、世界の社会問題を解決することも目的のひとつです。そこで、国と国による協力、協働も目指します。
  3. 人間中心の考えを貫き、デジタル技術の進展に即した人材育成の積極推進
    「つなぐ」ことはConnected Industriesを進めていくうえで欠かせないキーワードのひとつです。そして、この「つなぐ」は現在の技術を次世代の人材へと世代を超えてつないでいくことも意味しています。そのため、長期的な視点を持ち、将来の技術革新までを見据えた人材育成が欠かせません。

Connected Industriesの実現により得られるメリット

Connected Industriesの実現により製造業が得られる主なメリットは次のとおりです。

  • 新たな付加価値の創出
    Connected Industries実現による大きなメリットのひとつは、新たな付加価値の創出です。IoTを活用したモノとモノのつながり、人と機械・システムの協働・共創など人とモノや技術がつながることで人の知恵や創意を今以上に引き出せるようになります。これにより新たな付加価値の創出が期待できるようになるでしょう。
    具体的には、人工知能やIoT、ロボットによる共通基盤技術に運転制御技術、事故データ・カメラ情報データをつないだ無人自動走行による移動サービスの創出。共通基盤技術に金融技術、購買・商流データ・金融市場データをつないだ取引・決済データによる与信、資産運用アドバイスサービスの高度化などが挙げられます。
  • 国を超えた社会問題の解決
    社会問題の解決もConnected Industriesの実施によるメリットです。AIやIoTの技術革新やデータの利活用により、国境を越えた企業同士のつながりや世代を超えた人同士の技術や知恵の継承、そして生産者と消費者とのつながりなどが期待できます。
    その結果、これまでは対応が困難であった地方経済・コミュニティの疲弊、エネルギー・環境制約といったさまざまな社会問題の解決への可能性が高まるでしょう。

Connected Industries推進に向けた課題と対策

Connected Industriesを実現させるには、いくつかの課題もあります。ここでは具体的な課題とその対策について見ていきましょう。

Connected Industriesの推進に向けた主な課題

  • 企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいない
    Connected Industriesの実現には、システム導入や刷新などによる業務プロセスの革新や新たな技術の開発などデジタル化が欠かせません。しかし、以前に比べ進展はしているものの、まだ全体から見るとデジタル化は進んでいないため、データの全社横断的な活用や企業間での連携ができていない状況です。
    Connected Industriesでは、さまざまなモノや人、企業をつなぐことによる付加価値の創出が必須のため、業務のデジタル化が進まないとConnected Industriesの実現も難しいでしょう。
  • 先端IT人材が不足している
    AIやIoTなどを扱える先端IT人材の不足もConnected Industriesの実現を妨げる課題のひとつです。経済産業省によると、2030年までのIT人材の不足数推計では、16~80万人規模で不足する可能性があるとしています。先端IT人材の不足も今後さらに顕著になると予測されていることから、このままではConnected Industriesの実現は難しいと言えるでしょう。
    参考資料:IT人材需給に関する調査|経済産業省・みずほ情報総研株式会社
  • サイバーセキュリティリスクが生まれる
    Connected Industriesを実現させるには、インターネットの活用が欠かせません。そこで課題となるのがサイバーセキュリティリスクの高まりです。
    2023年4月、一般社団法人JPCERTコーディネーションセンターが発表した「JPCERT/CC インシデント報告対応レポート」。これによると、サイバー攻撃による被害報告数は、2018年に16,398件だったのが、2022年には53,921件と約3.2倍まで増加しています。
    Connected Industriesにおけるリスクは、あらゆるものがつながることにより、サイバー攻撃の機会が増える点です。また、一度セキュリティインシデントが発生すると、それが広範囲に波及する可能性が高まるので、注意しなくてはなりません。
    参考資料:JPCERT/CC インシデント報告対応レポート|一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター

Connected Industriesの課題解決に向けた対策

Connected Industriesの推進に向けた課題解決のための対策としては、企業のDX推進とIT人材の育成が欠かせません。ただし、これはひとつの企業だけで解決できるものではないため、国を挙げて取り組んでいく必要があります。
国としては、デジタル化実現に向けた設備やシステム購入資金補助の強化と認知拡大対策、IT人材の育成対策の実施。そして、企業としては、Connected Industriesの重要性を把握したうえで、国の補助を活用して積極的なデジタル化の推進、IT人材の雇用育成が重要となるでしょう。
また、サイバーセキュリティリスクに対しては、Society5.0におけるセキュリティ対策例をまとめた「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF)」の実践や、ハードウェアセキュリティの向上に必要な技術開発など、やはり国と産業界全体で取り組まなければなりません。

Connected Industriesの取り組み分野と主な事例

Connected Industriesでは、重点取り組み分野が具体的に挙げられています。それは次のとおりです。

  1. 自動走行・モビリティサービス
    自動車分野において、世界をリードすべくデータの利活用、AIシステム開発、人材育成を進めていくものです。事例としては、経済産業省と国土交通省の連携によるプロジェクト「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」が挙げられます。
    レベル4の自動運転とは「限定条件下での完全自動運転」と定義されていますが、この実現によって新しいモビリティサービス(MaaS)を普及させ、環境負荷の低減や移動課題の解決を目指すプロジェクトです。
    具体的には、限られた地域における無人自動運転移動サービスや高速道路でのトラックや一般車両の自動運転などの実現に向けた取り組みがすでに始まっています。
  2. ものづくり・ロボティクス
    あらゆる業種で喫緊の課題となっている、少子高齢化による人材不足の慢性化は、日本経済を支える製造業にも大きな影響を及ぼしています。そこで、人材不足の解決策として期待を集めているのが、「ものづくり・ロボティクス」です。工業用ロボットの導入やAIによる生産管理により、大幅な業務効率化、作業員の負担軽減が実現します。
    ある電力機器メーカーでは、移動工程の指示を与えるだけで重量のある荷物を自律走行で運搬するAI搬送ロボットの実用化に成功しました。その結果、作業員の負担軽減や生産性の高い業務への振り分けを可能にしています。
  3. バイオ・素材
    有機物を活用したバイオテクノロジーもConnected Industriesに欠かせない取り組みのひとつです。特に日本ではデジタル分野との融合による新たな価値の創出を念頭にバイオテクノロジーや素材産業の改革に期待が集まっています。
    ある都市ガス事業者は、下水汚泥や生ごみなどを微生物により発酵させることで発生するバイオガスを有効に利用。さらに地域の未利用バイオマス資源を活用した熱エネルギーの地産地消モデル検討に取り組んでいます。
  4. プラント・インフラ保安
    プラント・インフラは、設備の老朽化、熟練技術者の引退、新技術の活用が進まないなどさまざまな課題が山積している状況です。そこで、課題解決に向け、センサーやドローンを活用して収集したデータをもとに、プラント・インフラ保安に取り組んでいます。
    ある石油貯蔵タンクでは、2018年より人では難しいタンク高所の点検をドローンの活用による実証を実施しました。また、ある石油精製プラントでも、赤外線カメラを搭載したドローンによるフレアスタック点検を実施しています。

Connected Industriesの実現は製造業のデジタル化やIT人材の確保がカギ

Connected Industriesとは、経済産業省が2017年3月、世界に向け、主に日本の製造業が目指す姿を提唱したものです。海外でも同様の取り組みは進んでいますが、日本は少し後れを取っていることもあり、国を先導に企業も今後は積極的に取り組んでいく必要があります。課題として挙げられるのは、製造業のデジタル化の後れやIT人材の不足です。Connected Industriesの実現には、DX(デジタルトランスフォーメーション)が必須であり、早急にデジタル化を進め社内はもとより企業間のデータ連携も進めていかなくてはなりません。まず、デジタル化によって自社の業務効率化を目指し、そのなかでIT人材の育成を進めていくことが、Connected Industries実現のカギと言えるでしょう。

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