ホーム エッジ コンピューティング デジタルツインとは?仮想世界と現実世界の結びつきで生まれるメリットや事例を紹介

デジタルツインやメタバース、CPSといった、仮想世界と現実世界とを結びつける技術や考え方に関心が集まっています。これらの技術やその応用は、現実世界にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。この記事では、デジタルツインをはじめとした仮想世界と現実世界をつなぐ技術が、どういった方法で活用されているのかを解説します。

仮想世界と現実世界を結びつける技術とプロセス

かつて、現実世界で起こったことと仮想世界で起こったことは別々の事象であり、交わることのない、いわばパラレルワールドのような存在でした。しかし、デジタル技術の発達により、このふたつの世界を結びつけることが可能になりつつあります。
現実世界と仮想世界を結びつけるのに欠かせないのが、IoTです。IoTは、現実世界で発生したあらゆる出来事を、センサーによってデータとして取得することで、仮想世界への入り口を開く役割を果たします。現実世界と仮想世界の融合を果たしている代表的な存在が、デジタルツインやメタバースです。デジタルツインやメタバースと、それらに深くかかわるCPSとはどういったものか詳しく見ていきましょう。

デジタルツインとは

デジタルツインとは、現実世界にあるモノや出来事をデジタル化し、仮想世界でリアルタイムに再現したもの、またはその技術のことです。「デジタル上の双子」という意味のデジタルツインは、まさにデジタル上にそっくりの姿を再現することをいいます。工場や製品、都市計画や建設計画など、現実のモノや出来事を理想的に運営・管理することが目的です。
例えば、生産工場をデジタルツインとして再現した場合、現実での生産ラインもそのまま再現します。機器や人の動作、原材料や製品の保管や入出庫、その後の市場への輸送までもデジタルツインとして構築し、これらの工場を取り囲む生産システムをコンピューター上で稼働させます。この場合、製品の設計、生産ラインの稼働状況やトラブル発生頻度、製品の保管や流れ、倉庫の配置や輸配送の状況などを、デジタルツインで事前に想定して実験することができます。
こういった部分だけだと、従来の仮想空間においてシミュレーションを行うシミュレーターとの違いが見えにくいかもしれません。シミュレーションとデジタルツインの大きな違いは、時間軸の幅広さと正確性、想定範囲の規模にあります。デジタルツインは現実世界の対象とリンクして稼働するモデルでテストができ、リアルタイム性が高いのが特徴です。また、過去にあった例を想定してつくられたシミュレーションと違い、現在とさらに未来の状況までを見ることができます。
データが連動して変化する範囲も広く、ひとつのプロセスについて調べることが一般的なシミュレーションと異なり、複数のプロセスが変化します。これにより、変化によって影響する範囲も調べられます。
このような調査可能規模の大きさが、広い分野での活用につながっています。都市開発や建築設計などにおいても、複数の開発プロセスを何度も往復して設計を詰めていくような作業の時間短縮が可能であり、非常に有用です。次世代のものづくりや開発プロセス進行の形式として、さまざまな分野での活用が期待されています。

メタバースとは

メタバースは、インターネット上に構築した仮想世界や仮想空間のことです。メタバースでは、現実世界を超越した体験やコミュニケーションが行われ、経済活動を展開することも可能です。ユーザーは立体的な仮想空間内で、自身を表すアバターを通じて自由に移動することができ、人々と交流したり、商品やサービスの売買をしたりでき、多岐にわたる体験を楽しめます。

CPSとは

CPSとは、Cyber-Physical Systemの頭文字を取った略語で、現実世界と仮想世界を結びつけるシステムや考え方のことをいいます。この概念は、現実世界の物理システム(フィジカルシステム)から収集された情報を、仮想空間(サイバー空間)でコンピューター技術を駆使して解析するプロセスを指します。このとき、フィジカルシステムからサイバー空間への変換にはセンサーシステムを通じて取得したデータが用いられます。これによって、主観的な経験や直感ではなく、定量的な分析を行えます。CPSを用いて、現実世界の事象を仮想世界に置き換える、その反対に仮想世界のものを現実世界に表現するといった、さまざまな応用が可能です。

デジタルツイン、メタバース、CPSの違い

デジタルツイン、メタバース、CPSは、それぞれ現実世界と仮想世界の融合に関するものですが、次のような違いがあります。

  • デジタルツインは現実世界のモノをデジタル上にリアルタイムで再現したもの、またはその技術
  • メタバースは仮想空間、またはその空間を使って行う応用技術
  • CPSは現実世界の出来事を仮想世界で解析し、再び現実世界で役立てるプロセス

このように、デジタルツインは技術やツールであり、メタバースは空間や領域を表し、CPSはプロセスのことを指します。デジタルツインを中心に考えると、デジタルツインが存在する空間がメタバース、デジタルツインを活用して現実世界にフィードバックするプロセスがCPSです。

デジタルツインを支える技術

デジタルツインには、次のような技術が使われています。

IoT

電子機器や産業機械、自動車や家電製品など、あらゆるものがインターネットに接続されて情報を共有する技術がIoT(Internet of Things)です。高い精度を持つデジタルツインを構築するためには、現実世界の対象物についての詳細なデータが大量に必要になります。物体のデータを収集して、その情報を仮想世界に継続的に反映させるデジタルツインの実現に、IoTは不可欠な要素のひとつです。

参考記事:センシングとIoTの進化がもたらす産業の変化―AI・エッジと共に次の段階へ | Stratus Blog

AI

今ではAIと呼ばれることのほうが多いですが、かつては人工知能という呼ばれ方のほうが一般的でした。AIの最大の特徴は、知識を蓄えるだけでなく、自ら判断する能力を有する知能であるという点です。判断するという作業は、従来は人間にしかできない能力でしたが、AIの実用化によって機械が代行できるようになりました。それだけでなく、大量のデータを高速で分析して判断したり、人間では気づけないものごとに気づいたりと、高い精度での判断・判別が可能になっています。デジタルツインでは、現実世界にあるものを仮想世界に精密に再現し、それを分析した結果を現実世界にフィードバックします。このとき、分析を行うためにAIの存在が不可欠です。
現在では、AIの情報処理能力が向上しただけでなく、IoT普及による取得データ量が増加したことによって、AIが自己学習する機会も増えています。これにより、さらに精確な分析結果が得られるようになりました。AIは、高速で正確な分析が求められるデジタルツインに不可欠な技術です。

5G

5G(第5世代移動通信システム)は、高速・低遅延・大容量のデータを送受信することが可能な通信技術です。仮想世界へのリアルタイムのデータ反映が求められるデジタルツインにとって、データ送受信の高速性と安定性は重要です。将来的には、5Gの活用がデジタルツインでますます増加すると予想されています。

VR・AR・MR

VR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)、MR(Mixed Reality:複合現実)などもデジタルツインに活用される重要な技術です。現実世界のものを仮想世界で体験したり、仮想世界にあるものを現実世界で表現したりすることで、デジタルツインにより高いリアリティを持たせることができます。これらは、デジタルツインを体験するためのインターフェースのような役割を果たします。

デジタルツインを活用することで得られるメリット

デジタルツインを活用することで、次のようなメリットが期待できます。

安全性の向上

デジタルツインでは、現実世界にあるものを再現したモデルを用いて、現実世界では不可能なテストを実行できます。危険な行動や過度な負荷をかけたテストなどもでき、安全性が担保される限度値や、そこから安全率を求めることが可能です。また、ミスや事故が発生した際の余波がどこまで影響するかといったテストもできます。

リードタイム・TTMの短縮

現実世界で稼働中のシステムや工場を対象に、新たなシステムや新製品などを開発するのは、多くの時間を要します。例えば工場では、生産ラインが停止している合間を見つけてテストや試作品製作などを行う必要があります。それを各部署や取引先で確認を受けたあと再テスト、といったことも少なくありません。デジタルツインを活用すれば、すぐに多くの種類のテストを実行でき、開発プロセスを高速化できます。これにより、製品のリードタイムやTTM(タイムトゥマーケット:製品を市場に投入するまでの時間)を短縮可能です。

トラブル予測・予知保全

デジタルツインで稼働しているモデルを分析することで、トラブルが起こる前の兆候や、消耗品が劣化する周期などを割り出せます。こういった分析結果からトラブル予測をすることで、あらかじめ部品交換や修理を行う予知保全が可能になります。

品質向上

現実世界では稼働を継続しながら、デジタルツインでさまざまなパターンの製造プロセスや保管方法などを試すことが可能です。これにより、品質向上につなげられます。

コストダウン

デジタルツインでは、現実世界の稼働状況や生産工程にかかわらず、いつでもテストやシミュレーションができます。そのため、売上を落としたり大規模な人員をかけたりする必要がありません。また、テストや開発プロセス、設備保全を効率化することで、さまざまな行程のコストダウンにつながります。

デジタルツインの活用事例

実際に次のような場所や分野で、デジタルツインが活用されています。

3D都市モデルを利用してスマートな街づくり

国土交通省は、国内の3D都市モデルをデジタルツインとして利用できるプロジェクト「PLATEAU(プラトー)」を公開しています。仮想空間で街を歩きまわれるだけでなく、仮想空間での都市開発に利用することもでき、実際に渋谷ではスマートな街づくりのために活用が始まっています。

工事現場を再現し施工を最適化

重機で有名なコマツでは、工事現場のデジタルツインによって施工の最適化を行うシステム開発が進んでいます。リアルタイムで施工状況を確認できるだけでなく、未来予測や事故リスク予測などの分析も可能で、工事の安全性を高めることにもつながります。また、デジタルツインでの分析から施工計画書を作成することができ、リードタイムの大幅な短縮も可能にしています。

異常を予測しインシデントを防ぐ工場

エアコンや産業機械で知られるダイキン工業では、スマート化した工場と連動してデジタルツインの運用を始めました。製造ラインでの制御データだけでなく、作業者の生体データや場内の温度、CO2濃度などのデータもデジタルツインに反映しています。これにより、異常を予測し重大インシデントを防ぐことに役立てています。

デジタルツインの活用で新たな未来をつくる

デジタルツインの活用により、これまでは別々のものとして扱われてきた仮想世界と現実世界の出来事をリンクさせ、現実世界での安全性や品質向上、効率化などを図ることができます。トライアンドエラーから次のステップでフィードバックを行っていたプロセスを、デジタル上の仮想空間でテストを行い、直接フィードバックすることが可能です。デジタルツインは、仮想世界と現実世界とを結びつけることで、新たな未来をつくっていく技術として期待されています。

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