ホーム エッジ コンピューティング カーボンニュートラル達成に向けて製造業は何に取り組むべきか、対策と事例を紹介

カーボンニュートラルへの対応は世界的な取り組みになっています。現在までに、150以上の国が2050年などの期限を設定し、それまでにカーボンニュートラルを達成することを宣言しています。こうした流れを受けて、産業界での動きも活発化しています。製造業で注目されている対応策は、製造工程でのCO2排出削減やクリーンエネルギーの利用です。しかし、「具体的に何から取り組めばよいかわからない」と悩む製造現場の責任者は多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、製造業におけるカーボンニュートラルの必要性や具体策、具体的な取り組み事例を紹介します。製造業におけるカーボンニュートラルの取り組みを知り、製造現場の対策立案に取り組んでいきましょう。

製造業におけるカーボンニュートラル

そもそも、カーボンニュートラルとはどういう取り組みなのでしょうか。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすることです。温室効果ガスの排出による地球温暖化と環境破壊の進展には科学的根拠があり、これ以上の悪化を防ぐにはカーボンニュートラルの達成が必要不可欠であると認識されています。

製造業でもカーボンニュートラルが求められる背景

産業界のなかでも、とりわけ製造業にはカーボンニュートラルが強く求められています。産業部門から排出されるCO2は、日本全体の総排出量の34.7%に相当し、そのうちの94%を製造業が占めているからです。運輸部門から排出されるCO2も、日本全体の総排出量の18.6%と高い割合です。とりわけ自動車が大きな排出源となっていることから、運輸部門でのカーボンニュートラルについても自動車を生産する製造業が関係しているともいえます。

製造業におけるカーボンニュートラルの取り組み事例

実際に、製造業ではカーボンニュートラルに向けてどのような取り組みをしているのでしょうか。具体的な取り組み事例を紹介します。

エネルギーの見える化による省エネ推進事例

はじめに、エネルギー使用状況をリアルタイムに見える化するシステムを導入した工場の例をご紹介します。
これにより、設備の必要な稼働時間や起動している時間が定量化され、装置を稼動させる時間をスケジューリングできるようになりました。稼動の必要がないときは停止させることで待機エネルギーの削減に成功しています。また、ピーク電力の原因となっている設備の特定にも成功し、稼働時間をシフトすることで契約電力を引き下げ、年間で約1,000万円ものコスト削減を達成しています。

全電力を再生可能エネルギーに転換した中小企業の取り組み事例

大手企業がサプライチェーンも含めたカーボンニュートラルに取り組むなか、中小企業も取引継続のために対応を強化する必要があります。
「SBT(Science Based Targets)」「The Climate Pledge(気候変動対策に関する誓約)」といった国際的なプログラムに署名し、自社の製造拠点で使用する全電力をすべて再生可能エネルギーでまかなっている中小規模の企業があります。この企業ではまた、取引先・顧客への再生可能エネルギー導入支援や低炭素製品、サービスの調達にも取り組んでいます。この取り組みは、2021年にイギリスのNGO(非政府組織)より、8段階中上から3番目の評価を獲得しています。同社は2030年までに、自社のバリューチェーンで発生する量よりも多くの温室効果ガス削減を目指しています。

カーボンニュートラル対策が製造業にもたらす効果

カーボンニュートラルへの取り組みは企業にも恩恵をもたらします。具体的な内容を以下に見ていきましょう。

生産性向上・コスト削減

カーボンニュートラルに取り組むことで、エネルギー利用の効率化が進みます。たとえば、製品の構成や加工方式を見直すことで生産効率が向上すれば、より少ない装置で同じ量の製品を生産可能です。稼働する機械が減る分、より少ないエネルギーで生産活動ができるため、電気代や燃料費の削減につながります。浮いたコストはそのまま利益になるため、費用対効果を得られやすい施策です。

企業競争力・価値の向上

カーボンニュートラルへの取り組みにより、取引先に対して環境に配慮した製品を供給していることを訴求可能です。これにより、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルに取り組む企業からの受注獲得が期待できます。業界内で環境に配慮している企業の地位を確立すれば、他社と差別化できます。地球環境に配慮している企業のブランドをアピールして、採用活動で優位に立つことも可能です。

新しい事業の創出

カーボンニュートラルは新しい事業の創出にもつながります。再生可能エネルギーである太陽光発電の売電収入で収益が増加したことをきっかけに、再生可能エネルギー開発事業へ参入した例もあります。この企業では新事業参入への期待値は高く、今後の事業の柱として積極的に取り組んでいます。ほかにも、再生可能エネルギーを供給しやすい地域性を生かし、企業誘致に取り組む自治体もあります。さまざまな企業が集まることで、新しいビジネスの誕生が期待できます。

カーボンニュートラルを製造業で推進するうえでの課題

製造業にさまざまな恩恵をもたらすことが期待されるカーボンニュートラルですが、推進にあたっては多くの課題が存在します。

中小企業への負担

ビジネスモデルの変革や高効率な設備への入れ替えは、資金力の弱い中小企業の負担が大きくなります。特に自動車業界は中小企業が多く、カーボンニュートラルへの取り組みが遅れれば、業界全体の弱体化は避けられません。そのため、中小企業の支援や優遇措置の導入に国のバックアップが求められています。

省エネの進展による費用対効果の低下

日本の製造業は、世界のなかでも省エネが高水準で進行しています。つまり、費用対効果の大きい対策はほとんど実行されている状況といえるのです。さらなる効率化を実現するには高い技術力が必要とされるため、省エネ推進の投資対効果が期待できなくなっています。特に、パワー半導体業界では、需要増による生産設備増強でエネルギー消費量の増加が見込まれており、今後は省エネに貢献する革新的な技術開発への投資が不可欠です。したがって、カーボンニュートラルに対応するには、各企業のモチベーションを保つ施策が求められています。

再生可能エネルギーの安定供給

日本では、安価で安定した再生可能エネルギーの供給が難しいといわれています。資源エネルギー庁によると、以下のような理由が挙げられています。

  • 平野部が少ない
  • 隣国との再生可能エネルギー共有が困難
  • 南北に長く気象条件の地域差が大きい
  • 地震や台風などの地理的条件で設置費用が高い

このようななかで、企業の再生可能エネルギー導入を推進するには、省エネルギー政策と再生可能エネルギー政策の一本化や、企業努力を評価する仕組みが必要です。また、安定供給を推進する取り組みであるオフサイトコーポレートPPA契約(発電事業者が離れた場所で発電した再生可能エネルギーを利用者が購入する仕組み)や、小売電気事業者を介さず直接取引するための規制緩和が求められています。さらに、再生可能エネルギーを利用して生産した製品であることを証明するため、ブロックチェーン技術を再エネ分野に応用して、再生可能エネルギーの安定供給を推進する取り組みにも関心が寄せられています。

製造業のカーボンニュートラル対応は重要!今すぐ取り組もう

地球温暖化による環境破壊の進行を防ぐため、カーボンニュートラル達成への取り組みは必須であることが、科学的知見にもとづいて表明されています。製造業は温室効果ガスの排出量が多く、脱炭素への取り組みが強く求められている産業のひとつです。紹介した取り組み事例を参考に、カーボンニュートラルへの対策をできることから始めていきましょう。

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