産業・社会・政府のデジタライゼーション、あるいはデジタルトランスフォーメーションの機運が高まっています。直近では、日本政府のデジタル庁創設の提言がありますが、その背景にはグローバルなデジタルトランスフォーメーションの動向に、日本が遅れているという危機感があると考えます。従いまして、諸外国でのデジタルトランスフォーメーションの流れを参考にして、これから日本で進める方針のヒントにするということは意味があると思います。本ブログではここから、デジタルトランスフォーメーションの代わりに短縮化したデジタル化という言葉を使用します。
産業・社会・政府のデジタル化を考えたときに、これまでのコンピューター処理への移行と真の意味でのデジタル化を分けるのは何でしょうか。私は、前者は定型業務処理の効率性を求めてコンピューター処理化することであり、後者は組織の課題解決をすることを目的として、最新のデジタル技術を利用して人々の生活や組織の業績を良くすることであると考えます。
教育分野でのデジタル化を考えてみましょう。日本では教科書を紙ベースではなくタブレットにすることや、教室でのWi-Fiネットワームを広く設置すること、e-Learningのソフトウェアを充実させることなどの議論が活発です。これらのことは、教育に関するデジタル化の基盤不足を解決するという意味では、課題解決をすると言えるかもしれません。しかし、本質的な教育分野での課題に対しての解決策にはなっていないと感じます。米国では、教育改革にデジタル機器を利用する際に、特にK12(幼稚園から高等学校までの期間)においてどのような課題があるかを分析した上で、そこをスタートポイントとして計画を立案しました。
問題意識の中心は、大学進学率は高いのだが、数学の基礎力と論理的な文章の作成力が不足しているということでした。機器を導入する際には、タブレットはあまり採用されずに、クラムシェル型(ノートPCのイメージです)のキーボードが着いた機器が多く採用されました。これは、論理的な文章を記述する能力をつけるのに、キーボードを利用して文章を作成するのが良いという常識的な理由からです。また、複数の生徒の回答や異なった意見を比較できるような機能を含む無償ソフトウェアが、クラウドベースで利用されています。日本の教育の課題に関しては、十分な議論が必要ですが、個人的には『AI vs.教科書が読めない子どもたち』の著者であります、新井紀子氏の提言が腹落ちします。それは、多くの中高生が、AIと同様に文脈を理解しないままの計算や暗記によって問題を解いていることです。中高生の意味理解・読解力向上が直近の課題であるということです。教育のデジタル化であれば、この課題を解決することを含むデジタル化が望まれます。
さて、産業分野でのデジタル化に話を移しましょう。産業分野でのデジタル化の先鞭をつけたのはドイツで提唱されたインダストリー4.0です。ドイツ製造業の競争力を高めることを実現するために、工場と製造プロセスのインテリジェント化・スマート化することを進めるというものです。ここでの国レベルでの課題意識は、製造業の劇的な進化が達成できない場合は、将来はドイツの製造業の国際的競争力が弱まり市場が狭くなるということ。そして、ドイツ企業の利益を確保するためには、サービスを含む革新的なビジネスモデルを構築する必要があるということであったようです。
その結果、ドイツが掲げた開発計画においては、カスタマイズと再構築可能な製造プロセス、製造プロセスの透明化、設備の状態をモニタリング可能にすること、自律判断決定能力の自動化、サプライ・チェーンと市場情報の融合、 情報化されたオペレーションや保全・整備、ERP(基幹システム)との統合 などが含まれています。この計画から、ドイツにおけるどのような企業が参画しているか、企業の具体名まで想像できる人も多いのではないでしょうか。日本でもドイツと同じような産業分野、特に主要産業である製造業での課題があり、経産省が「コネクティッドインダストリーズ」を提唱しました。経団連はさらに発展させたSociety 5.0を「デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって、社会の課題を解決し、価値を創造する社会」と再定義しています。
このような国や産業界での政策的レベルでの計画を視野にいれながら、個々の企業は具体的な課題解決を狙ってデジタル化を進めていく必要があります。日本市場で活動をする中で、製造業の皆さまからは以下のような内容を含む課題が多く聞かれます。
- 既存の設備・インフラストラクチュアが古くなり、新しい技術導入が困難であること
- エンジニアの高齢化、それにともなう従来型の技術継承が困難であること
- 自社での垂直型開発・製造から、競争力を維持するために水平型開発・製造の必要性
- 工場の海外展開・拠点の移動・国内回帰などに対して対応可能な管理システムの必要性
上記以外にも多くの課題があると考えます。製造業や社会インフラを支える企業がデジタル化を進めるうえで、データのセキュリティーを担保すること、処理のリアルタイム性の確保や遅延の最小化、さまざまな場所から生成されるデータの連携なども不可欠となります。その課題に対して エッジ コンピューティングの採用が回答になるケースが多くあると感じています。2022年には75%ものデータが、データセンタやクラウド外で作られ処理されると予見されています。また、2023年には50%のITインフラストラクチュアがエッジに転換されるとも予見されています。つまり、製造業や社会インフラを提供する企業でのビジネス課題を解決するためにデジタル化を実施する時には、エッジコンピューティングが多くの役割を果たす可能性が高いということです。ストラタスは今後エッジコンピューティング領域で、シンプルで・保護されていて・自律性を持ったソリューションを継続的に提供することにより、お客様の課題解決に貢献したいと考えています。