ホーム デジタルトランスフォーメーション ペイメント研究会コラム(第2回) ~ 日本でもペイメント革命は起き得るのか?

ペイメント研究会コラム(第2回) ~ 日本でもペイメント革命は起き得るのか?

前回コラムからの続きとなりますが、他の多くの産業分野と同様にペイメントの分野でも国際化と技術革新の波が押し寄せ、多くの有識者も決済(ペイメント)革命とも呼べるような大きな変化が起きつつあると考えているようです。

それがどのような変化となるのかを考える上で、2025年に「キャッシュレス決済」比率を(2016年の約20%から)2025年に40%に高める経済産業省の目標、更に将来的には80%という目標を実現することは実際に可能なのかをここで考えてみたいと思います。

統計上、キャッシュレス決済比率の計算で分母となる家計最終消費支出の中には(キャッシュレス決済に含まれない銀行口座間の電子送金で決済されることが多い)土地・建物は含まれていませんが、元々仮想的な消費支出で支払が発生しない自己所有住宅の帰属家賃(約50兆円、家計最終消費支出の約17%)が含まれています。この点を考慮すると80%という目標は支払が実際に発生する消費支出のほとんどをカバーしようという非常に意欲的なものであることが判ります。

40%は現状の延長線上で、大きな(場合によっては革命的・破壊的な)変革を伴わずに達成可能な目標、80%はそのような変革を必要とする可能性が高い目標とも言えます。後者の実現には(キャッシュレス決済を受け入れる)加盟店側、(支払をする)消費者側両方で現在キャッシュレス決済の普及を妨げているほとんどすべての要素を無くすこと、もしくはそのような阻害要因を覆して加盟店、消費者をキャッシュレス決済に向かわせる強いインセンティブが必要となります。

キャッシュレス決済が飛躍的に伸びた近隣諸国の例としては、韓国が1997年の通貨危機を機に政府主導で脱税防止、消費活性化等のために、年間クレジットカード利用額の20%の所得控除(上限30万円)、宝くじといったインセンティブを与えることでクレジットカードの利用額を1999年から2002年までのわずか3年間で7倍近く増やした事例、前回のコラムでも取り上げた近年の中国でのQRコード決済の急速な普及があげられますが、後者の(特に小規模事業者への)急速な普及の主たる要因のひとつは、ほぼゼロの初期投資(個人等小規模事業者はQRコードを印刷した紙を店舗に張り、スマホで決済情報の管理をすればOK)と手数料(Alipay、WeChat Payの口座からの一定額、一定頻度以上の出金(現金化)にのみ0.1%)にあることは明らかです。

このように近隣諸国で強いインセンティブ付与、普及阻害要因の大幅な除去を行った結果、キャッシュレス決済が急速に普及した例が見られることは興味深いことです。振り返って我が国について言えば、日本でクレジットカード利用が始まった1960年代前半から60年近い歴史の中で徐々にキャッシュレス比率を伸ばしてきた、ある意味で成熟しているとも言える日本のペイメント市場でキャッシュレス化が大きく伸びるには、上記の二つの事例で見られたのと同じくらい大きなインパクトを持つ強力な推進要因が必要だと考えられます。

現金を取り扱うためのコストは日本全体では一説には数兆円に及ぶと言われています。そのコストは紙幣の発行、輸送、管理、ATM等の機器、金融機関、店舗等で現金を取り扱うための人件費等多岐に渡ります。このように社会全体で幅広くコストが発生している状況をキャッシュレス化によって解消するような活動は本来官が主導するのが妥当という見方ができますが、日本では縦割り行政の中でペイメントに関与する官庁が経済産業省と金融庁に分かれていることや、各官庁が関連業界の秩序を重んじ既得権保護に傾きやすいといった側面を考えると、韓国のように政府・政策主導で飛躍的な伸びを実現することは難しいように思えます。

一方、既に成熟した日本のペイメント業界にはイシュア、アクワイアラ、ブランド、情報処理・ネットワーク事業者等の数多くの既存プレーヤーが存在します。1つの取引を処理するにも複数のプレーヤーが関与し、そこからの収益を分け合っている現状で、既存プレーヤーの中からその秩序を破壊しかねない大きな変化が生まれ、急速な進展が見られることも考え辛く思えます。

また、QRコード決済、生体認証決済など新しい決済手段の普及を目指す新規プレーヤーも数多く市場に参入して来ています。特にソフトバンク、ヤフージャパン、LINE、楽天といった他のIT分野で既に成功を収めた、資金量が豊富で既存の業界秩序と距離を置くプレーヤーは大きな変化を生み出すポテンシャルを持っていると考えられます。IT分野で大きな成功を収めたアリババ、WeChatが中国で決済革命を起こしたのと同様のパターンですね。

上記の3つのシナリオと較べてより可能性が高いのは海外主導の動きによって日本のペイメント市場が短期間に大きく変わるというシナリオだと我々は考えています。資金量が桁違いに大きいGAFA (Google、Amazon、Facebook、Apple)もこの分野に照準を定めています。

またそういった個々の企業の動きにとどまらずG7、G20といった国々で今後数年間の内に急速にキャッシュレス化が進めば(これは実際にいくつかの国で既に起きたり現在進行形で起きつつあることなので仮定というよりは実現可能性の高い予想と言えます)、日本だけがガラパゴスとなって、現金天国とも言えるような状況を維持したままでやっていけるでしょうか?PC、スマートフォンといったITハードウェアやGoogleの検索サービス、FacebookといったITの世界で閉じたサービスが瞬く間に世界を席巻し、日本でも普及したのに対し、実世界との関わりが強く法制度・商習慣の影響を受ける新しい決済サービスの浸透には時間を要し、日本のような独自要素を多く持つ国ではより普及に時間がかかるのは確かです。一方で長期に渡ってガラパゴス状態を維持することも今後ますます困難になっていくでしょう。

我々は世界各国約40カ所に拠点を持つ国際企業として、また日本・中国をまたいでペイメント分野でのソフトウェア設計開発を行っている集団として、このような世界の動きをしっかりと見据えた上で将来に渡って最適なペイメント・ソリューションを提供していきたいと思っています。

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