ホーム エッジ コンピューティング エッジコンピューティングとIoTが実現する社会―2つの技術が結びつくと何が変わる?

エッジコンピューティングとIoTが実現する社会―2つの技術が結びつくと何が変わる?

IoTは今では普及が進んだと考えられている技術ですが、まだ進化の大きな可能性が残っています。その進化に必要な要素として注目されているのが、エッジコンピューティングです。IoTにエッジコンピューティングが結びつくことによって何が可能になり、社会はどのように変化していくのでしょうか。

これからの世界を支えるふたつの技術、IoTとエッジコンピューティングとは

IoTは、世界のあらゆる産業だけでなく、日常生活までも大きく変える可能性を持つほど大きな変化を伴う革新的な技術です。そして、IoTをさらに数歩先へと進めようとしているのが エッジコンピューティングです。これからの世界を支えると予測されるこのふたつの技術はどういったものなのでしょうか。

IoTとは?

IoTという言葉が生まれた当初は、「無線タグを装着したモノがセンサーおよびコンピュータによってインターネットに接続される仕組み」を表していました。IoTと略される「Internet of Things」は、「モノのインターネット」という言葉ですでに定着しています。ここでのインターネットとは、私たちが普段使っているインターネットそのものではなく、インターネットの一部に組み込まれるという意味です。しかし、IoTは当初の意味合いからさらに広い意味を持つ言葉へと進化しています。

  • 従来、そして現在のIoT
    IoTはいまや身近な存在となり、「現実世界の事象・現象をモニタリングしてデータ化し、インターネットを介して送受信する機能」を指す言葉にもなっています。そのための機器は「スマート機器」と呼ばれ、普及が進んでいます。スマートフォンから電源の操作ができるスマートプラグや、電気ポットによって使用者の安否確認がわかる仕組みなどは、身近なIoTの代表例といえるでしょう。
  • これからのIoT
    一方で、IoTには、「IoTによって取得した現実世界のデータを蓄積・解析し、再び現実世界のことがらに活用していくサイクル」という意味も含まれるようになりつつあります。生活基盤の街全体がインターネット接続を基本として成り立つスマートシティ、工場全体がIoTによって稼働するスマートファクトリーなどがこの意味合いに含まれます。また、現実空間のデータを明確な仮想空間に置いてから再び現実空間に還元するデジタルツインは、その一歩先にまで踏み込んだIoTのあり方といえるかもしれません。

エッジコンピューティングとは?

IoT をさらに進化させる技術として注目されているのが、コンピュータネットワークの周縁(エッジ)でデータ処理を行うネットワーク技術であるエッジコンピューティングです。エッジコンピューティングの「エッジ」は「端(はし)」という意味で、クラウドが情報を取り扱う中心に位置するとしたら、エッジは現場の最前線に位置します。
ここでIoTが何をしているかをひと言で表すと、「情報の伝達」です。情報を伝達して処理する技術、すなわちIT(Information Technology)の活用が進むなかで、情報に求められる要素は量や質のほかに、時間に関することも必要になってきました。それは情報の新鮮さ、リアルタイム性です。

  • エッジコンピューティングのリアルタイム性
    例えば、連続する動作を制御するシステムや、高速で移動するものの制御において、0.1秒の違いは大きな意味を持ちます。IoT機器とクラウドサーバの間でデータを送受信する時間が短縮されると、それだけ情報のリアルタイム性は大きくなるといえます。エッジコンピューティングは、こういった情報のやりとりを高速化するための技術です。
  • クラウドとエッジコンピューティングの違い
    クラウドを中心としたデータ処理では、センサーによって得た情報をインターネット経由でクラウドへと送信し、データセンターで処理します。その結果を再び現場の作動装置に返すというやりとりを行う時間の間に、情報の新鮮さは失われていきます。
    エッジコンピューティングでは、現場側の端末で処理できるデータとクラウドへ送信するデータを分別します。現場側で処理しすぐに作動機器へと命令を送ることにより、情報の新鮮さ、リアルタイム性は失われることなく利用されるのです。

このように、エッジコンピューティングは情報のリアルタイム性を向上させ、IoTを次の段階へと進化させる技術として重要度が高まっています。

エッジコンピューティングの活用で解決するIoTシステムの課題

IoTは、一般的な生活はもちろん、製造業を中心にビジネスの世界でも急速に普及を続けています。しかし、ここからさらなる進化を遂げるには、エッジコンピューティングの活用が欠かせません。ここでは、具体的にクラウドでのIoT活用で生じる課題に対して、エッジコンピューティングで解決できる点について解説します。

通信コストの抑制

エッジコンピューティングを利用しない場合、すべてのデータをIoTデバイスからクラウドまで送信する必要が生じます。そのため、大量のデータを扱う場合は通信容量が増加し、通信コストも膨大になってしまうでしょう。
しかし、エッジコンピューティングを活用すれば、必要なデータだけをクラウドに送ればよいため、通信コストの増加抑制が可能です。

データのリアルタイム性の確保

エッジコンピューティングを利用しない場合、クラウドですべてのデータ処理を行わなければなりません。そうなれば、システム全体の遅延が発生し、データの転送速度が低下します。その結果、情報のリアルタイム性が低下し、運用担当者にシステムのモニタリングとメンテナンスの手間が発生します。
エッジコンピューティングを活用すれば、それぞれのデバイス側でデータ処理を行うため、システムの遅延やデータの転送速度低下といったリスクの軽減が可能です。そのため、運用管理者の業務負担軽減に加え、データのリアルタイム性が確保されます。

セキュリティリスクの低減

すべてのデータがクラウド上で処理される場合、セキュリティリスクが高まる可能性も考えられます。また、機密性の高いデータは外部のパブリッククラウドにデータを送り出すことができないため、IoT自体の活用が難しい場合もあるでしょう。
企業としてセキュリティリスクが高いとなれば、どれほどIoTが普及しても積極的には活用できません。しかし、エッジコンピューティングであれば、デバイス側での処理が可能なため、セキュリティリスクの低減も可能です。

IoTの次の扉をエッジコンピューティングが開く

エッジコンピューティングは、どのような意味でIoTを進化させるといわれているのでしょうか。
これまでのIoTは、主に「見える化」のために使われることが大半でした。センサーで得た情報を人がわかるように表示することがもっとも多い利用のされ方であり、IoTは人による機械の監視を便利にするものと考えている人も多いかもしれません。
エッジコンピューティングは、これにリアルタイム性を加えます。そこから、IoTを進化させる次の扉が開かれるのです。
これからのIoTは、センサーにより得た情報を人に伝える役割だけでなく、その情報を処理してフィードバックし、次の動作を決定するためのものへと変化していきます。機械が瞬時にリアルタイム性の高い命令を受け取ることで、さまざまな自動機器やAIによる制御などの精度が向上し、これまで不可能だった制御が可能になるのです。
これからは、産業分野での情報通信で活用されることを想定したローカル5Gの導入も進むため、IoTの課題である大量データ通信も可能になります。ローカル5Gとエッジコンピューティングの組み合わせにより、自動化やロボティクスも次の段階に進むことになり、IoTの活用方法の幅は大きく広がっていくと考えられます。

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エッジコンピューティングを利用したIoT活用事例

エッジコンピューティングによってIoTにリアルタイム性が加わることで、大きく前進する4つの分野が期待されています。

自動運転技術

IoTとエッジコンピューティングによって可能になるものとして、世間からの注目度も高いのが自動運転技術です。
高速で走る自動車は1秒間に数十メートルも進むため、瞬間的な判断が求められます。このとき、カメラやセンサーによって得たデータのすべてをクラウドで送受信していては、すでに通り過ぎた地点に対しての命令となってしまうでしょう。インターネットでいつでも起こりうるタイムラグは、自動運転にとっては非常に大きな課題となるのです。
そこで、リアルタイムで情報を処理し、瞬時の判断が可能なエッジコンピューティングの技術により、この課題が解決すると期待されています。
自動運転技術は、特に物流業界に革命を起こすのではないかと期待され、世界の物流を大きく革新する可能性を秘めた注目の分野です。

スマートファクトリー

「工場まるごとIoT」ともいえる、あらゆる機器や作業環境にセンサーが取り付けられIoTによって制御される工場がスマートファクトリーです。すでに世界中でいくつものスマートファクトリーが稼働を始めています。
これにエッジコンピューティングによるリアルタイム性が加わることで、これまでとは違う意味を持つスマートファクトリーが誕生します。ビッグデータやAIといった関連技術すべてがエッジコンピューティングと結びつくことで、処理の高速化が可能になるのです。
最近注目されているデジタルツインは、工場と物流を含めた環境を仮想空間で再現し稼働させることで、さまざまな課題の再現とテストを可能にするスマートファクトリーのひとつです。ここでも、情報のリアルタイム性は「仮想空間の双子」であるデジタルツインと現実空間の工場のタイムラグをなくし、再現性を高めます。
また、機械のこれまでの故障傾向や故障の起こる前にあった兆候をAIによって解析することで、故障発生前にメンテナンスを行うようにする技術を予知保全といいます。この予知保全においても、瞬時に故障の前兆を判断するうえでエッジコンピューティングが有効です。
IoTとエッジコンピューティングが結びつくことで、スマートファクトリーは実用の幅を広げ、本当の第4次産業革命を迎えると期待されています。

無人店舗

製造業や自動運転のほか、私たちの日常生活に密着した小売業界でも、エッジコンピューティングやIoTの活用が進んでいます。その代表的な例が「Amazon Go」です。
アマゾン社が2018年にアメリカ、シアトルにオープンさせた完全無人店舗Amazon Goは、店舗内に多数のカメラやセンサーを設置し、入店客の認証、購買製品の確認を行います。利用客は買い物カゴに商品を入れ、退店時に二次元バーコードで支払いを済ませられるため、カウンターで清算する必要もなく、スムーズな購買体験が可能となります。
また、店舗内に設置するカメラやセンサーにより、顧客の認証や購買製品の確認以外にも店舗内での顧客の行動、性別や年齢の推定なども可能です。そして、商品に付けられたRFIDタグでは消費期限の確認も行えます。
これらにより、顧客の動きを参考にした棚割りや商品レイアウトの実現、棚卸業務や商品入れ替えの効率化が図れるようになり、店舗側と顧客側双方にとってさまざまなメリットが生まれます。

スマート医療

エッジコンピューティングは医療現場でも活用が始まっています。具体的には、患者の遠隔監視、介護や退院後ケアの自動化、診断のスピードや正確性の向上を実現させる人工知能などです。ワクチンのサプライチェーン追跡においてもエッジコンピューティングが大きな役割を果たします。
また、エッジコンピューティングの活用により、電子カルテや医療の業務管理、機器などのデータ処理において、通信環境の悪化による遅延発生といったリスク回避が可能です。地震や台風などの自然災害時に停電が起きても、治療を継続できるのはスマート医療ならではでしょう。
さらに、スマート医療は救急車内でも活用されています。バルセロナでは救急隊員がタブレットPCで患者の高解像度ビデオを撮影し、測定したバイタルサインのデータを5G接続で救急処置室のスタッフに送信することで、これまで以上に迅速な対応を可能にしました。
ほかにも、病院内で患者のベッド脇で脳スキャンを行えるエッジデバイスを設置し、スキャンされた画像をリアルタイムで分析することや、血糖値を予測できるセンサーを設置し、糖尿病患者に自動でインスリンを投与することなども可能にしています。

Society5.0を支える技術としてエッジコンピューティングの果たす役割

政府も、日本の未来のかたちとして、スマート化した社会を目指す方針を打ち出しています。それがSociety5.0です。
狩猟社会をSociety1.0とし、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続くSociety5.0は、人間中心の社会を意味します。具体的には、サイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立することを目的とした社会です。
これは、IoTの産業への活用だけでなく、ドローンによる荷物の配達や全自動農村など、身近な部分にもIoTを活用した社会を実現するための未来投資戦略です。ここから人口減少や高齢化、エネルギー戦略などのさまざまな社会課題を解決し、新しい持続可能な社会経済システムを構築しようとしています。
さまざまな社会問題を解決するためのIoT活用において課題となるのは、デバイスからクラウドまでのデータ通信遅延や、通信容量の制限、セキュリティの懸念などです。多くの企業や個人データを扱うことになるため、IoT単体では問題の解決は難しいでしょう。
そこで重要となるのがエッジコンピューティングです。デバイスでのデータ処理が可能であるため、リアルタイム性の高いサービスやシステムの提供が可能になります。また、すべてのデータをクラウドに上げる必要もなくなるため、データ通信遅延、通信容量の制限、セキュリティリスクなども解消されます。
エッジコンピューティングはSociety5.0に不可欠な技術であり、新しい持続可能な社会経済システムの構築に大きく貢献するでしょう。

エッジコンピューティングが変えるIoTの使い方

エッジコンピューティングとIoTが結びつくことでどういった変化が起こるのか、社会はどのように進化していくのかを紹介しました。
IoTはこれまで、情報を人に伝えることに重点を置いた使い方がされてきました。しかし、そこにエッジコンピューティングという技術が加わることで、情報を処理して送り返すという部分に大きな可能性が開けたのです。これにより、IoTの活用幅は大きく進化することになります。新たな未来社会の実現には、IoTにエッジコンピューティングを結びつけ、関連技術すべてを進化させていく必要があります。

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