産業分野での普及が進むIoTについて、そのさらなる活用に注目が集まっています。すでに普及が進んだIoTが、なぜさらに重要と考えられているのでしょうか。その理由を紹介しながら、これからのIoTはどのように活用されるべきかを考えます。
IoTで実現できること
「Internet of Things」の略称であるIoTは、コンピュータ以外のさまざまな家電、車、電子機器などの「モノ」をインターネットに接続して行うデータのやり取りを指すものです。
IoTの活用により、従来では難しかったさまざまなことが実現できるようになりました。ここでは、特に私たちの生活にも大きな影響を与えている3つの機能を紹介します。
IoTで実現できる主な3つの機能
- 遠隔操作
産業分野においては、離れた場所から工場で機械の操作を行う、高所や狭い場所など人が入れない場所での作業を離れた場所から行うこともできます。 - 通信
デバイスを介した通信により、別のデバイスを操作することも可能です。産業分野においては、工場内を自律的に移動できる無人搬送車にロボットアームとカメラを取り付け、遠隔操作でピッキング作業を行うといったことが挙げられます。 - 状態監視
遠隔地にある「モノ」の状態をリアルタイムで監視するのもIoTが実現する機能のひとつです。産業分野においては、長距離トラックドライバーの走行距離や時間などの運行状況の監視、工場での設備、機器の稼働状況、故障の有無などの監視が挙げられます。また、ビニールハウス内の温度、日照時間の検知、病院での患者の呼吸・脈拍・血圧などの検知なども状態監視のひとつです。
日本の産業が直面している喫緊の課題とは?
経済産業省や厚生労働省・文部科学省の連携でまとめている、「ものづくり白書2022」では、現在、日本の産業がどのような課題を抱えているかについて次のようなことが挙げられています。
DX推進の遅れ
近年、製造業でもDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めるケースは増えているものの、まだまだ未着手の企業が多いことも事実です。製造業におけるIT投資は、有形・無形問わず2010年辺りから横ばいの状況が続いています。
DX推進が思ったように進んでいない理由はいくつか考えられます。その一つが、工場の設備や機器の老朽化です。前述したようにIT投資は横ばいの状況ですが、設備投資についても2021年あたりから回復傾向になってはいるものの、2019年のピーク時には及はず、設備投資が進んでいないのが現状です。
設備投資については、補助金や助成金の充実も必要ではありますが、DX化を実現するには企業も積極的な投資を行っていくことが求められます。
また、もう一つのポイントは情報セキュリティ対策です。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が行った「2021年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」によると、多くの中小企業では情報セキュリティに対する危機意識が足りない現状が示されています。
DXを推進するうえでデジタル化は欠かせないポイントであり、情報セキュリティに対する意識を企業としても個人としても強く持つこともDX推進に必要だと言えるでしょう。
参照:2021年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査|IPA(独立行政法人情報処理推進機構)
情報セキュリティ対策について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
IoTのセキュリティリスクとは?セキュリティが求められる背景と具体的な対策を解説|Stratus Blog
原油価格高騰、部素材不足
原油価格の高騰は、産業分野にも大きな影響があり、素材系の業種を中心に生産コストが増大しています。また、2021年以降さまざまな部素材不足も発生していますが、なかでも半導体不足は喫緊の課題といえるでしょう。
カーボンニュートラル実現への取り組み
2020年10月26日、当時総理大臣であった菅氏は、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言。さらに2030年度には温室効果ガスを2013年から46%削減することを目指すと表明しました。
2021年時点での産業部門のCO2排出量シェアは25.3%(直接排出量・間接排出量のシェアは35.1%)です。日本が排出する温室効果ガスのうち約9割がCO2であることから、産業部門のCO2排出量削減は、重要な課題であり早急な対応が求められています。
人材確保、育成、IT人材不足
2021年の段階で製造業の就業者数は1,045万人です。2002年には1,202万人だったため、約20年で157万人の減少となっています。また、製造業における若年就業者数は、約20年で121万人の減少ですが、逆に高齢就業者数は同時期で33万人増加と高齢化が進んでいます。
製造業において若年層の確保は大きな課題ですが、もう1つの課題がIT人材の育成です。DX推進を行うにもIT人材の育成は欠かせません。しかし、人材不足から本来業務の技能継承も難しいなか、さらにIT人材もとなると容易ではなく、製造業にとって大きな課題となっています。
日本の産業が直面している課題を乗り切るためのIoT活用
前項で挙げた4つの課題を乗り切るためには、IoT活用が欠かせません。ここではIoT活用による具体的な対策について解説します。
IoT活用によるスマートファクトリーの実現
DX化の遅れを解消するための重要なポイントは、スマートファクトリーの実現です。老朽化した設備や機器を刷新、またはIoT技術を活用することで、デジタルデータを基にした業務管理と業務プロセスの改善を進めていきます。これにはセンサーやカメラを使ったデータ収集や分析などが含まれます。
スマートファクトリーの実現により、不良品の削減、設計品質の向上、在庫の削減、設備や人員の稼働率向上など、多くの効果が期待できます。これにより、DX化の遅れも解消できるでしょう。
状態監視機能を活用した生産コスト削減対策
IoT機器による「状態監視」を活用すれば、生産コストの削減が期待できます。たとえば、工場内にセンサーを設置し、不良品の見極めを自動化させることで出荷ロスの削減が可能です。また、設備や機器に設置し、予知保全を実現させるなどにより、故障トラブルも削減でき、大幅に生産コストを削減できます。
原油価格の高騰や部素材不足の解消は、IoT活用で賄えるものではありませんが、IoTを使った仕組みで支出を減らすことは可能です。これにより全体的な生産コストの削減も期待できるようになるでしょう。
状況検知機能によるカーボンニュートラルの実現
カーボンニュートラルの実現に欠かせないCO2排出量削減を果たすには、電力消費の抑制が欠かせません。そこで重要となるのは現状の把握であり、そのための取り組みとして求められるのがIoT活用です。
IoTの「検知」機能を活用し、さまざまなモノの消費電力データを収集して可視化させ得られたデータを分析すれば、無駄な電力消費を抑制でき、省エネ効果が得られます。
人材不足解消につながるIoT活用
これまで人が行ってきた設備や機器の監視、点検作業のほか、データ収集・分析を自動化する仕組みもIoT活用で可能です。こうした作業に従事していた人員は新たなデジタル技術の習得や活用に時間を割けるようになります。その結果、人材不足の解消に加え、IT人材を育成につなげることも可能でしょう。
産業分野でのIoT活用はデジタル人材育成やデジタルツインの実現など第2段階へ
IoTは急速に普及し、あらゆる箇所からのデータ取得や、スマートファクトリーは現実のものとなっています。しかし、これまでのIoT活用は、データを「見える化」するために使っているケースが大半です。これはIoT活用の第1段階といえます。
日本の産業が世界での競争力を維持していくためには、IoT活用の第2段階、「見える化されたデータをいかに有効活用するか」を考えなければなりません。IoTによって取得したデータを、こういった「使えるデータ」にするためにはデータの質の高さを担保する仕組みが必要です。そこで、データの取捨選択を行い有効なデータにするための工程を行う人材、またはシステムが必要となります。こういった理由から、IT人材の確保が急務とされているのです。
現在、経済産業省では、DX等成長分野を中心とした人材育成において次のような取り組みを行っています。
- 数理・データサイエンス・AI教育の推進
大学・高等専門学校が実施する教育プログラムを文部科学大臣が認定する制度を通じ、社会全体で数理・データイエンス・AI教育分野に取り組む環境の整備 - マイスター・ハイスクール
次世代地域産業人材育成刷新事業として、最先端の職業人材育成を目指し、12事業(マイスター・ハイスクール指定校13校)を指定して産業界との連携による取り組みの実施 - DX等成長分野を中心としたリカレント教育の推進
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた、就業者・失業者等に対し、DX等成長分野を中心に就職・転職支援プログラムを実施。
また、データの使い方も重要です。現在、取り組みが始められているデータ活用法の代表例として、デジタルツインがあります。
デジタルツインは、仮想世界に工場や物流拠点をそっくりそのまま作り、現実と連携させて稼働させる「デジタル上の双子」です。実際にモノがどのように作られ、どのような状況で運ばれるのかを再現し、そこから生産の最適化を図る新しい生産管理手法です。また、現実では難しい環境テストや、生産効率を落とすような設備・機器のトラブルを予知保守することも可能となります。
こういった、データを取得して稼働状況を見える化するだけでなく、データをさらに有効活用する取り組みが、第四次産業革命の第2段階として進められているのです。
産業分野でのIoT活用事例
それでは、IoTは実際の場面でどのように活用されているのでしょうか。製造業と自治体、2つの分野でのIoT活用事例を紹介します。
製造業分野でのIoT活用事例
製造業を営む株式会社ポリコールでは、IoT活用による業務エラーの防止と作業効率の向上を実現しています。同社では、紙で印刷された製造指示書に基づいた製造を行っていましたが、手作業の工程が多く原料の品目選定や計量ミスが起こり、クレームにつながるケースも少なくありませんでした。
そこで、IoT技術を用いた軽量システムを導入。計量の際に原材料のバーコードラベルを読み取りつつ計量器の指示どおりに作業員が計量するため、原材料の誤使用や誤計量の防止が実現しました。
また、計量記録が自動入出力されることで計量後の何重にも及ぶ確認と記録作業が不要となり、作業工数が削減され、業務効率向上も達成したのです。
デジタルツインの活用事例
エアコンや科学製品の製造を行うダイキン工業では、工場の製造ライン上に設置した各種センサーから取得したさまざまなデータをリアルタイムにデジタルツイン状に反映しています。そして、異常予測機能を活用し、重大インシデントを未然に防ぐ取り組みによって前年度比で3割強のロス削減を可能にしました。
自治体分野でのIoT活用事例
福岡県糸島市では、IoT活用で平常時でも利活用可能なG空間地域防災システムを構築しました。これは、地震・津波等による広域災害や緊急性を要する大規模災害に対して、G空間情報(地理空間情報)とICTを連携させて構築する先端的な防災システムで、市と大学、民間企業が共同で構築しています。
ここでは、同システムにIoTを組み込んだ観測機器をAPI連携させることで、平常時から他自治体や地域住民との情報共有、平常時・災害対応時の業務効率化を実現しました。また、G空間情報技術と各種センサーを活用した災害対策本部の意思決定支援や判断の高度化・迅速化がなされるようになり、災害時の被害軽減に大きく貢献するシステムが実現しています。
IoTの活用は日本の産業を進化させるカギ
コロナ禍や不安定な世界情勢のなかで、日本のものづくりは大きな転換期にあると言えます。特にカーボンニュートラルや、DX(デジタルトランスフォーメーション)への実現に向け、早急な対応が欠かせません。
経済産業省では、日本が世界での競争力を維持・強化していくには第四次産業革命が重要であるとしていますが、そのためにもIoTの活用は鍵を握っていると言えます。あらゆるモノがインターネットに接続されることで、産業の変革が訪れるとされる第四次産業革命。その大きな変革を実現させるには、改めてIoTへの理解を深め、積極的に活用していくことが欠かせません。